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初めてのキス

 さすがに今のは失礼だったので謝罪すると、アステル様は苦笑して許してくれた。


「気を悪くされたら、ごめんなさい」

「いや、実は緊張でどうにかなりそうだったから、気が抜けたおかげで楽になったよ。さっきのは忘れてくれる?」

「え……っ」


 しないと言われて、勝手にもショックを受ける。アステル様の気持ちは嬉しかったし、よければキスしてもいいという気にまでなっていた。無神経な事、言うんじゃなかった……


「だって、君の疑問はもっともだもの。僕の口じゃ上手く距離感を掴めないし、下手すればリジーに噛り付いてしまうよ」

「だからって……あたしたちにはこの先、結婚も待っているんですよ。ずっとこのままは……そうだ!」


 あたしは邪魔になる眼鏡を一旦外してから、アステル様の顎を両手で挟み込むと、少し持ち上げる。お鼻の方が大きいので、こうしないと口に届かない。せっかく戻りかけた顔色が紅潮し、あたしの手の中で熱を持った。


「リ、リジー!? なにを……」

「動かないでアステル様……失礼します」


 顔を傾け、鼻の下や口の端あたりに何度か唇を押し付ける。初めてのキスは、あまりそれっぽくは感じなかったけれど、アステル様に嬉しいと思ってもらいたい……という気持ちを込めた。

 それなのにアステル様の目からは、ポロリと涙が零れ落ちる。再び抱きしめてきた腕は震えていて、あたしからはしない方がよかったのかと焦る。


「アステル様!? 申し訳ありません、お嫌でしたか」

「違うよ、リジー。好きになった女性にキスもできない自分が情けなくて……今ので、僕の呪いも解けたらよかったのに」


 喜んでもらいたかったのに、アステル様の悲しげな声に胸が痛くなる。今まではどれだけ化け物と呼ばれても平気そうだったのに、あたしが、思い出させてしまった……自身に刻まれた消えない傷を。

 でも、アステル様。


「呪いなんて解けなくても、アステル様が好きですよ。ずっとおそばにいて、キスだってあたしからしてあげます」


 それじゃ、ダメですか……?

 向き合って覗き込めば、気のせいかアステル様からは複雑そうな空気が感じられた。納得してもらえないなら、何度か噛み付かれる覚悟もしなきゃならない。


「ありがとうリジー、今はその気持ちだけで嬉しいよ。

君には知っておいてほしいんだ。僕の計画と、ラク嬢との会話で得た情報を」


 どうやら言いたい事はあるようだけど、ここで打ち切られてしまった。先ほどの話題に戻され、あたしの気分も神妙なものになる。ただ、お互いの気持ちを確かめ合った事でもやもやが消え失せたので、何を聞かされても素直に受け取れそうだった。



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