明日の予定
そうこうしているうちに、ドロン様やリューネたちが戻ってきたのでお開きになった。ラク様は子供たちと接した事で、少し緊張も解れたようで、最後には笑顔で手を振っていた。
「また、来たい」
「いいんじゃないでしょうか。王妃になれば孤児院の視察に来る事も増えるでしょうし」
あたしの返事に、何を思ったのかラク様が変な顔をした。くい、と袖を引かれる。
「あの、あのリジーさま」
「何でしょう、ラク様」
「明日……神殿へ、一緒に行きませんか」
え、これはどう取ればいいのかしら……殿下には特に何も言われてないけれども、今日と同じく行動を共にすればいいのか。それとも、あたしが殿下たちの取り巻きに交ざるのか……後者だったらお断りしたいんだけど。
「ラク様は殿下と同じ王族の席に着く事を許されていますけど、わたくしはそうは参りません」
「でも、あの……私、神殿の、空気が、苦手で……見られている、から」
その時の事を思い出したのか、青褪めた顔で身震いしている。空気が苦手とは……雰囲気って意味なのかしら? 見られているというのがよく分からないが、鎧に襲われた場所でもあるので怖がるのは無理もない。
「わたくしが勝手に判断するわけにはいきませんので、殿下に聞いてみては」
「そ、そうします」
とりあえずどうなるかは、明日の朝に神殿前で待ち合わせてから決める事にして、ラク様はドロン様と王宮へ帰ろうとしたのだが――
「なあ、そこの町の喫茶店で今、スイーツの食べ放題やってるって聞いたんだけど。帰りに寄って行かないか?」
ロラン様からお誘いがかかった。彼が寄り道したいなんて珍しい……と思っていたら、ドロン様が突っかかってきた。
「いい度胸だな、婚約者の前で堂々と浮気に誘うとは」
「浮気って……大袈裟ね。リジーもいる事、忘れてない? 文句があるならあんたとラク様も来ればいいじゃない(本当は嫌だけど)」
「バカめ、夕食前にラク様に買い食いなどさせれば、殿下とのディナーに支障が出るだろうが。監督責任は俺にあるって分かっているのか!」
本当に、殿下も人選ミスしたわよね。でもリューネには悪いけど、ドロン様がしっかり監督できてないおかげで色々興味深い話が聞けたのも事実だわ。
「はぁ……ごめんねリジー、私もこれで帰るわ。ロランに付き合ってあげてくれる?」
「あ、うんいいよ」
ドロン様に見えない角度でうんざりした顔を作ると、無表情になったリューネはドロン様にやいやい言われながらラク様と馬車に乗り込んだ。
残されたあたしは、隣のロラン様をちらりと見遣る。
「あの……いいんですか? 本当はリューネを誘いたかったんじゃ……」
「え? ……いやいや、実はあなたに来ていただくためのカムフラージュですよ」
ん? 今日のロラン様は何だかおかしいわね。やけによそよそしいと言うか、口調も畏まってるし。首を傾げつつも、ロラン様の後について町に出る。
あたしが『エリザベス』であった頃、視察が終わればすぐに馬車で戻っていたので、こうしてゆっくり町を散策なんてできなかった。貴族のような煌びやかさはないけれど、国民は皆それぞれ、日々を楽しく過ごす術を心得ているようだ。
ロラン様に案内された喫茶店では本当に食べ放題のフェアが開催されていて、女性客が多くつめかけている。彼が店員さんに何か伝えると、あたしたちは他のお客さんが見える場所ではなく、何故か個室に通された。
「え……っ?」
そこには、動かない表情の仮面を被ったアステル様が待っていた。




