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友人という立場

「こうして、王子様は、薔薇の、痣の、乙女と、結ばれ、いつまでも、幸せに、暮らしました。めでたし、めでたし」


 読み終わったラク様は絵本をパタンと閉じ、大きく息を吐く。パチパチとまばらに拍手が送られる中、あたしも手を叩きながら彼女を労った。


「ラク様、よく頑張りましたね。みんな、このお話を聞いてどう思う?」


 ラク様の視線だけがあたしの方を向く。緊張しっぱなしだった反動で、全身の力が抜けているのだろう。


「エリザベスさま、かわいそう」

「神様からお告げがなければ、こんな目に遭わなかったのに」

「王子もひどいヤツだよな。不安にさせたのは自分なのに、エリザベスさま一人のせいにして」


「何だと、無礼なガキどもめ!!」


 正直に感想を言い合っていた子供たちは、怒鳴り付けたドロン様の剣幕にキャアッと悲鳴を上げた。数人、泣いてしまった子もいる。


「ライラプス伯爵子息、子供たちはまだ小さいのです」

「だからこそ今、物の道理というものを教えてやらねばいかんだろうが!」

「感情のままに怒鳴りつけては、上の者のご機嫌ばかり窺って賄賂や空世辞ばかり使う大人になってしまいます」

「貴様、たかが男爵家の分際で……」


 大股でこちらへ向かってきて、胸倉を掴もうと伸ばされた手。思わず身を固くしていると――


「いじめないで」

「ラ、ラク様?」


 止めたのはラク様だった。意外な行動にあたしもドロン様も目を丸くする。


「リジーさまは、私の、友達。いじめないで」

「わ、私はいじめなど」

「そうだそうだ、リジーお姉ちゃんをいじめるな!」

「いじめるなー!」


 ラク様が味方についた事で、勢いを得た子供たちは次々にあたしを庇い出す。ドロン様はジロッと彼らを睨み付けていたが、ラク様の口から殿下に伝わるのを恐れたのだろう。


「ふん! いいか、これはいじめじゃないからな! こんな場所、結婚したらリューネには二度と来させないようにしないと……」


 ブツブツと文句を言いながら、ラク様を置いて行ってしまうドロン様。そのまま帰るというわけではないだろうけど、子供たちを相手するのが面倒になったようだ。そんな調子で結婚生活なんてできるの? 今からリューネの行く末が心配だわ……


「ラク様、みんな。助けてくれてありがとうございます」

「い、いいえ。ドロンさまは、いつもは、笑っていて、大人しいのに、テセウスさまが、いないと、こわい」


 つまり殿下の前だとヘラヘラ愛想よくて、それ以外だとああなのね。子供たちはお礼を言われた事で誇らしそうに胸を張っていたが、今度はラク様に頭を下げた。


「ラクさま、ごめんなさい。ぼくたち、あなたを悪い人だと思ってました」

「……え」

「だって、あなたが異世界から来たせいで、エリザベス様は婚約破棄されて追い出されたんだもの。それなのにエリザベス様の苦しみも知らないで、絵本みたいに王子と自分だけ幸せになるなんてって」


 殿下はこの絵本の内容をそのまま子供たちに刷り込むつもりだったようだけど、子供たちなりに考え、答えを出したようだった。これも教育の一環なのかしら?

 ラク様の目は大きく見開かれ、感情が揺れているのが窺い知れる。この世界に来た当初、そういう意見も出ていたのを思い出したのだろう。


「ラク様、あなたが悪いわけではありません。ただ、『エリザベス』様に関する異論が殿下の知るところとなれば、わたくしは消されるでしょうね」

「そ……そんな! 私は、そんなつもりじゃ、ない!」

「ええ、分かっています。ですからこれからあなたが話す事は、ここにいるわたくしたちだけの秘密にしておいてください」


 せっかくできた同性の友人をなくす事を、ラク様は恐れているようだった。半ば脅しているようで気が引けるのだけど、聞けるチャンスはそれほどない。


「私が、話す? 何を……」


 だからあたしは、殿下から賜った友人という立場を、大いに利用させていただきます!


「絵本の、真実」



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