別の修羅場
「エリザベスは、邪魔な、乙女を、殺そうと、斧で、襲いかかりました。けれども、そこへ、間一髪で、王子様が、現れ、乙女を、助け出します。
王子様は、乙女を、抱きしめ、エリザベスに、こう、言い放ちました。
『世界一、美しい、姿を、しているが、その心は、世界一、醜いのだな。そんな、お前を、私の、妃にする、事は、できない。お前に、ふさわしい、夫は、私が、決めてやろう』」
ドワーフの曜日、社会見学で訪れた孤児院で、集まった子供たちに読み聞かせる声が響く。たどたどしく途切れさせながらの話し方は、鳴れていないのか緊張のせいか……無邪気で遠慮のない視線に、絵本を広げて椅子に座った状態のラク様の顔色は、真っ白だった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
何故こんな事になっているのかと言えば、前日に遡る。
ラク様から打ち解けた事を聞き付けた殿下から、社会学習にも同行させてやって欲しいと言い付けられたのだ。
「失礼ながら、今まではどうされたのですか」
「まだ慣れていないのもあって、この国の言語学習を優先させていた」
テセウス殿下はラク様を王子妃候補にとお考えのようだけど、そんなペースで大丈夫なのかしら……もう一年よ。実際、机上よりも他者との交流の方が上達するのは分かっていたようで、そのための同性の友人探しでもあったのだ。
「……では、孤児院で絵本の読み聞かせを致しますので、ラク様にご同席を」
「そうだな。同行者にはドロンを付けよう」
えっ、ドロン様!?
思ってもみなかった人選に驚いていると、殿下が文句でもあるのかという目で見てきたので、慌てて首を振る。
「そう意外でもあるまい。リンクス侯爵令嬢も行くのだろう? 奴は彼女の婚約者だ」
「ああ、はい……」
地獄絵図になる事が予想される面子に胃が痛くなってきた……
当日、予想通り孤児院に向かう途中、約三名がピリピリしていた。
「なんでお前も同行するんだ。俺は殿下のご命令で来ている。さっさと帰れ!」
「俺は最初から彼女たちのメンバーだよ。それに、殿下は俺については何もおっしゃっていない」
「……(怒)」
男二人の剣幕よりも、無言のリューネが怖い。あたしは後ろを振り返りながら手を合わせて謝るポーズを取ると、疲れたように首を振られた。
そうして迎えてくれた子供たちに、新たに加わった二人を紹介したのだが、仕事の振り分けでまた揉めた。
「俺はラク様の護衛で来ているからな。お前は洗濯でもやってろ」
「じゃあ、私が手伝うわ。行こう、ロラン」
「って、待て! 婚約者を差し置いて二人っきりになるつもりか!」
「どこもここも二人っきりになりようがないだろ……職員さんも一緒だよ」
怒鳴り合いに発展する三人におろおろする大人たちをよそに、子供たちは興味津々だ。
「おれ知ってる、シュラバってやつだよな」
「リューネお姉ちゃんはロランお兄ちゃんとドロンさま、どっちを選ぶのかしら?」
ああもう、教育に悪い!
あたしは固唾を飲んで成り行きを見守っているラク様を指差す。
「みんな、今日はこのラクお姉ちゃんがご本を読んでくれますよ!」
「えっ」
「ラク様は字を読むのがあまり得意ではないの。だからゆっくりでも急かさないで聞いてあげてね」
「はーい!」
「お姉ちゃん、がんばれー」
「えー……」
殿下によれば、もう読み書きと聞き取りは問題ないそうなのだが、肝心なのは会話だ。こればっかりは場数を踏んで慣れてもらうしかない。
勝手に仕切った事でドロン様にはムッとして詰め寄られる。
「貴様、男爵家の分際でラク様をこき使う気か?」
「何もさせないのでしたら、ここに来られた意味がありません。ダメなら洗濯係に回ってもらいますが、ライラプス伯爵子息はどうなさいますか?」
「私はどっちでもいいけどー、早く決めてよね」
リューネにせっつかれ、ドロン様は「くそっ!」と悪態を吐くと、その場で胡坐をかいた。ラク様は助けを求めるように見てきたけれど、簡単だからと言って絵本を差し出せば、諦めたように子供たちの真ん中に置いてある椅子に腰かけたのだった。




