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本音

「ラク様、あなたが元いた世界の話をお聞きしたいのですが……よろしいですか?」


 そう言うと、ラク様は驚きと戸惑いで目を丸くしていた。ちらりとリューネの方を窺うと、「私も興味あるのよね」と頷いている。


「ここには殿下もおられませんから、遠慮なさらず。なんて言ったかしら……ほら、オニ何とかって食べ物」

「オニギリ……コメ、を、茹でて丸めた食べ物、です。コメ、は、麦に似ていて、でも粉にしない」

「穀物の一種なのですね? そちらに慣れ親しんでいるのなら、パンが主食の我が国の料理は口に合わなかったのでは?」

「パ、パンもある、けど……もっと甘くて柔らかい。麺もある。スープに入れて食べるのが、ラーメン」

「まあ、おいしそう。一度食べてみたいわね」


 あたしとリューネは代わる代わる質問しながら、ラク様の言葉を引き出していった。殿下といる時のラク様は、殿下以外とはほとんど言葉を交わさない印象だったけど、人嫌いってわけではなさそうだ。どうも過保護なせいでこの世界の人たちと距離ができてしまっていたのだろう。


「だけど、その気になればこちらでも用意できそうね。卵やお漬物は調理法次第だし、『ウインナー』だってソーセージの事じゃない」

「そうね、食べ物はまだそこまで乖離していないかも……。他に異世界とこちらの違いはありますか?」

「リュ、リューネさまのような、猫の耳をした人間はいません。世界中で『デンキ』が使われ、部屋を明るくしたり、離れた場所で会話をしたり、掃除や洗濯を行います。あと、魔法は誰も使えません」


 驚く事に、ラク様の世界では『デンキ』なるエネルギーでこちらよりもずっと進んだ文明を築いているらしかった。それとは別に、『魔法』の概念もあるようだけど、あくまでおとぎ話の範疇なのは変わらない。


「アハハッ、私たちだって魔法を使えるわけじゃないのよ。まあ他国はどうなのか知らないけど、少なくとも我が国では実在するかのように吹聴するのはお勧めしないわね」

「えっ、でも……」


 笑い飛ばしたリューネに反論しかけて、口を噤むラク様。これは……ある推測が頭に浮かび、あたしは声量を落とした。


「ひょっとしてラク様、魔法を実際に目にした事があるのですか?」

「いいえ、その……()()は数式だと、殿下が言いました。私は、『現象』によってこの世界に来ました。だけど、私はそれを、『魔法』だと……」


 殿下が? ラク様が『魔法』だと思った何かを『数式』だと? しかもそれは、ラク様をこの世界に呼んだ『現象』で……


(ラク様が異世界転移したのは、事故によるものだと聞いていたけれど……)


 王家によって隠されてはいるが、魔法はあるのだ。それは当然、殿下も知っているはず。それどころか、アステル様のように使いこなす事も……もしかしたら。


「あ、あの……でも、この事は言ってはいけないと」

「ええ、ええ分かりますラク様。あなたもわたくしたちに話した事は、誰にも言ってはいけませんよ。魔法の存在を知られたら、口封じに消されるかもしれませんから」

「ヒッ、は、はいっ」


 あながちハッタリとも言えない脅しに、ラク様は身を竦ませて何度も首を振っていた。あたしたちは互いに口止めし合い、その場はお開きとなった。席を立とうとするラク様に、最後にあたしは問いかける。


「ラク様、もし叶うのであれば……元の世界に帰りたいですか?」

「……」


 ラク様の目が大きく見開かれたが、それに対する答えは返ってこなかった。



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