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『悪役令嬢』の末路

 わたくしが牢を出たのは、それからひと月後の事だった。傷口が膿んだのと環境の悪さも相まって高熱を出してしまい、体調が整うまでに時間がかかったのだ。


 その間、殿下は何度かわたくしを見舞うと称して外の様子を皮肉交じりに語っていった。どうやら世間ではすっかり悪女として広まっているようで、卒業後はまともに仕事を見つけられるのかが心配だ。伯爵夫人ともなれば必要ないかもしれないが、貴族と言えど養家のような経済状況の場合もある。

 殿下の揶揄にはほとんど反応しなかったが、一度だけ言葉を発した事がある。


「殿下は……このような目に遭わせるほど、わたくしが憎いのでしょう? でしたら婚約破棄したわたくしなどよりも、愛するラク様のおそばに付き添われては、いかがでしょうか」


 朦朧とする頭で何とか言葉を紡ぎ出したわたくしに、殿下は同意するどころか激昂し、「貴様が知った風な口を利くな!!」と怒鳴りつけて出て行った。あれから殿下は地下牢に顔を見せる事もなくなった。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 その身一つで放り出されたわたくしは、侍女の服を借りて学生寮に戻ってきた。公爵家に居場所がなかったので、在学時にはここで生活していたのだが。


「ひどい……」


 わたくしの部屋は、『凌辱』とも呼べる有り様になっていた。鍵は抉じ開けられ、窓ガラスは全て割られて隙間風が入ってきている。ベッドシーツもカーテンも引き裂かれ、クローゼットに仕舞われていた制服は溝にでも放り込んだのか、ドロドロに汚れて悪臭を放っていた。教科書や筆記装具も壊されて床に放り出されている。

 そして壁一面に殴り書きされた「死ね」の文字……一体わたくしが何をしたのだろう。と言うか、学生寮は学園の財産な訳で……これもわたくしが弁償しなければならないのかしら? 勘当されてもうお金はないのだけれど。


 溜息を吐き、振り向いたわたくしの顔に、雑巾が投げ付けられた。呆気に取られていると、廊下には同級生たちが軽蔑の眼差しでこちらを睨み付け、次々とゴミを投げ付けてくる。中にはバケツごと振り被ってくる娘もいたので、慌ててドアを閉めて攻撃を防ぐ。


「何しに戻ってきたのよ、この人殺し!」

「前々からあんたは、殿下にふさわしくないって思ってたのよね!」

「もう公爵令嬢でも神託の妃でもないんだから、さっさと出て行きなさいよ」

「死ね!」「死ね!」「死ね!」


 ガンガン、とドアが激しく叩かれる。鍵が壊されたドアが開けられないよう、わたくしは必死に押さえ付けた。悪意が、憎しみがわたくしの心を抉っていく。わたくしはこんなにも、嫌われていた。わたくしは、ひとりぼっちだ……


「お嬢様!!」


 その時、鋭い声が上がったかと思うと、ドアの向こうで喧騒が止んだ。時々悲鳴が聞こえたが、やがてすっかり治まって静まり返る。何事かと様子を窺っていると、トントンとドアをノックされた。


「お嬢様、もう大丈夫です。お迎えに上がりました」

「だ、誰……?」

「覚えていらっしゃらないでしょうか? ボーデン男爵家でメイド長を務めていました、マーサの娘エミィです。幼い頃、お嬢様と一緒に遊んだりしましたよね」

「エミィ!?」


 その名を聞いてドアを開けると、メイド服に身を包んだ女性が安心させるように笑いかけてきた。後ろ手に持ったモップはきっと、女生徒たちを追い払う時に使ったのだろう。



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