深まる疑問
あたしが恐る恐る伺うと、殿下は断られるとは微塵も疑っていない様子で「色よい返事を期待している」と返した。まあ、実際逆らえないんですけど。
そこで解散となり、会議室を出て行こうとする背中に「あ」と声を漏らしてしまう。殿下に訊ねたい事があったのだ。
「何だ、言い忘れた事があるならさっさと言え」
「はい、あの……つかぬ事をお聞きしますが、殿下はアス…ディアンジュール伯爵領にご訪問されたりは……」
「……何故そのような事を聞く」
それまで良さそうだった機嫌が一気に急降下したので、危うく「ひぃっ」と上がりかけた悲鳴を飲み込む。
「いえっ、それはですね。ディアンジュール伯爵も王族でいらっしゃいますから、その……たまには、と」
あたしの脳裏に、アステル様のお屋敷で見た光景が蘇る。赤ん坊の頃の殿下の肖像画、そして寝室での謎の女性との逢瀬……見間違いや夢だった可能性もなくはない。それぐらい現実味に乏しかったのだが、忘れようにも本人を前にするとどうしても思い出してしまう。ここは今の内にはっきりしておこう。
あたしの疑問に、殿下は汚いものをみるかのように顔を顰めた。
「俺があの化け物と親族だからという理由で、あんな薄気味悪い場所に好んで滞在しに行っていると思っているのか」
「そ、そうですよねすみません!!」
低い唸り声に即座に頭を下げたが、この言い様だと行った事自体はあるようだ。ただ裏世界に関しては「薄気味悪い」で済む話でもないので、今の時点で知っているのかは微妙だ。(王となるのなら遅かれ早かれ知ってもおかしくはないが)
「だが、まあ……そうだな、腹立たしいが真実だ。幼い頃に母に連れて行かれ、その時に初めてあいつと対面した。当時から人間離れした不気味な男でな……母から親交を深めろと言われたが断固拒否してやったよ。それからは母が伯爵領を訪問する際には一度も同行はしていない」
「えっ」
幼い頃だけ、と言われると今はもう行っていない事になるが、王妃様に同行していないだけでお忍びで訪問されているとも取れる。もちろん、これほどまでに嫌悪しているアステル様に会いに行くとも思えないのだけど。
はっきりと、夏季休暇中に伯爵家に泊まったのか聞いて、その答えが嘘でも本当でも納得すれば済む話ではあるけれど……アステル様と無関係の『リジー』がそれを気にするのは怪しまれるのよね。
「何だ? 王族とは言え、たかが伯爵風情と親密ではない事がそんなにもおかしいか?」
「いいえ、全然っ! おかげさまでスッキリ解消いたしました、ありがとうございますっ!」
本当はもやもやは晴れていないのだけど、とりあえず殿下はあの日、伯爵邸にはいなかった。あれは目の錯覚だった……という事にして忘れよう。




