不躾な来訪者
屋敷に戻ったあたしたちは、夕食の席に着きながら、男爵領が開発した薬の特許や研究についての取り扱いの打ち合わせをした。と言っても勉強を始めて日が浅いあたしは、アステル様の説明に頷いていただけだけど。
その後、用意された客室に戻ったあたしは、入浴後にベッドの上でエミィに髪を乾かしてもらっている最中に、そう言えば薬を処方する医師についても聞いておくのを忘れていた事に気付く。あたし自身、生まれた時に病気を患っていてお世話になったはずなのに。
「アステル様、まだ起きているかしら」
何かあったら訪ねてきてくれと教えられた、アステル様の私室に向かう。扉横には、とても美しい女神像が部屋の主を守るように設置されていた。
ノックをしようとして、僅かに開いているのに気付く。悪いと思いつつも、あたしは恐る恐る隙間から覗き込んでみた。
あたしの視界からは、部屋の奥にかけられた大きな鏡しか見えない。そしてそこに映っていたのは――
「――っ!?」
思わずバタンと音を立てて扉を閉めてしまう。たった今、自分が見た光景が信じられなくて後退る。心臓がバクバク鳴っていた。
(何故……どうしてあの御方がここに!?)
「リジー……?」
扉の向こうからアステル様の声がして、心臓が口から飛び出るかと思った。カチャリと扉を開けて顔を覗かせたのは、やはりアステル様だ。彼が自分の部屋にいるのは当然なのだが。
「来てくれたんだ。どうかしたのか……?」
「ア、アステル様……今、部屋にはお一人ですか」
「ああ、話があるなら中で聞くよ。こんな格好で失礼するが」
扉を大きく開くと、アステル様の全身が露わになった。バスローブから覗く逞しい胸元にドキッとする。よく考えたらあたしも寝間着だし、部屋に押しかけたりするのははしたなかったかもしれない。それに……
「いいえ、急ぎではないので今日は出直します」
「そう? おやすみ、リジー」
「……おやすみなさい」
うるさいくらいの鼓動を誤魔化すため、あたしは逃げるように退散した。そうしないと、動揺が隠し切れなかったのだ。
部屋を覗いた時に見えた鏡に映っていたのは、なんとテセウス殿下だった。椅子に腰かけて眠っている彼の上には妖艶な美女が覆い被さっている。半裸になり絡み合う彼らの姿は、見てはいけないと知りつつも目に焼き付いて消えなかった。
(どうしてテセウス殿下がここにいるの? あの女の人は、誰? 彼女、ラク様じゃないのに、どうして好き放題させているの? アステル様は、どういうつもりで……)
あまりにも現実離れしていて、夢でも見せられていたような気分だった。いや、きっとそうなのだ。アステル様の部屋に殿下がいた事も、謎の美女との関係も、それをアステル様が隠していた事も、全部全部夢に違いない。
そうでないと、あまりに気分が悪かった。




