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男爵領の強み

 その後、応接間に通されたあたしは、さっそく男爵領でまとめた資料や持ってきた薬をアステル様に見てもらった。


「この方は未知の伝染病を発見した学者様、そしてこのお医者様が特効薬を開発しました。論文も発表されましたが、王都では詐欺呼ばわりされ、特許申請も叶いませんでした。

アステル様、このお薬はもしや……」

「うん、原料になる薬草から強い魔力を感じる。効果も魔法によるものだろう。とは言え、その病に関しては、魔法に関する情報を避けてもそこそこは治せるようになったからね。男爵領ではどういった扱いを受けている?」

「もぐりという形にはなりますけど……養老院に患者を集め、症状を和らげる体操を行ったり、薬湯を飲ませているようです」


 あくまで対処法の一つとして、他の改善方法に紛れさせている訳だ。まるで『エリザベス』のようだな……と自身と重ね合わせる。

 乾燥させた薬草を手に載せ、(鼻息で吹き飛ばないよう慎重に)匂いを嗅いでいたアステル様は、うん、と頷くと立ち上がる。


「リジーさえよければ、この件にディアンジュール伯爵領も一枚噛ませてもらえないだろうか。これらは必ず男爵領にとっての財産、強みになるし、この者たちの努力が必ず報われる形にするから」

「本当ですか!? もし叶うのなら……みんな喜びます」


 男爵領が潤うのはもちろんだが、何より民を救うために励んできた人たちの名誉を守りたい。是非に、とお願いすると、アステル様はあたしに手を差し出した。


「それで、伯爵領は薬や特許を買い取ってくれるという事でしょうか?」

「それもあるけど、これは直接見てもらった方がいいだろう。ついてきて」



 手を引かれるまま、あたしはアステル様に連れられて地下に続く階段を下りていく。周囲は薄暗く、足を踏み外さないよう慎重に進んでいくと、やがて一枚のドアの前で止まった。


 ギギーッと軋む音と共に、光が差し込んでくる。眩しくて、あたしは思わず目を閉じた。え……ここって地下だよね??


「リジー、目を開けて」


 アステル様に促され、恐る恐る瞼を開いたあたしは、目の前に広がる光景に呆気にとられた。


「なに、これ」


 空が真っ赤だった。

 夕焼け、という感じではない。血のように鮮やかな色なのだ。それなのに、青空の下にいるように明るい。ピンク色の雲がふわふわと漂い、カラスなのかスズメなのか判別つかない鳥が奇妙な声を上げて飛んでいる。

 何より、すぐ近くの庭を世話しているのが、亜人なのだ。リューネと同じ体の一部が動物になっている人たちが、和やかに挨拶を交わしている。


「ここって……」

「ようこそ、リジー。ディアンジュール伯爵家が地上と繋ぐ、『裏世界』へ」


 この日、あたしはまた一つ、アステル様の秘密を知ったのだった。



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