僕だけを見て
城に向かう馬車の中で、アステル様はマスクを脱いだ。秘密空間の中ではお馴染みの、牛を思わせる素顔が露わになる。
城門前に到着すると、御者が招待状と同封されていた通行証を門番に見せる。そこまでは順調だった。
馬車が止まり、アステル様にエスコートされながら地面に足をつけた途端、周りから悲鳴が上がった。それを聞いてバタバタとこちらにやってくる兵士たち。
「何者だ! ……うわっ、化け物!!」
「隣にいるのは、エリザベス=デミコ ロナル公爵令嬢!?」
「殿下にお伝えしろ! 侵入者だー!!」
……なるほど、こう来たか。あたしは一番近くの、槍を構える兵士に声をかけた。
「わたくしたちはテセウス殿下の誕生パーティーに参加するよう、直々にご命令を承っております。招待状を確認していただけます?」
「なんだこれは、王家が発行したものでは……こっ、これは!?」
「そのような話は聞いて……ヒッ」
後ろからぬっと顔を出したアステル様に、もう一人の兵士はすっかり腰が引けている。
「私はアステル=ディアンジュール伯爵だ。噂ぐらいは聞いた事があるだろう? 見ての通り、受け取った招待状には王妃殿下のサインが入っている。どうしてもここを通せないのであれば、責任者に一筆書いてもらえないか? 我々はそれを持ち帰り、後日参加できなかった理由として提出させてもらう」
「ひ、ひぃ~、お待ちを!」
兵士たちは腰を抜かしながら逃げるように城内に戻っていった。周囲はこの騒動に固唾をのみ、遠巻きで見守っている。
「やれやれ……招待状が他と違う事に気付けたから、何かあるなと思っていたが」
「こちらが少しでも隙を見せれば、容赦なく突いてくる気でしょうね」
「まあ、通せないと言われれば証明書をもらってさっさと帰ろう」
実は届いた招待状に何か仕込まれてはいないか、リューネの家に届いた分と比べさせたもらったのだ。その結果、デザインが違う上にテセウス殿下の署名も筆跡が違っていた。あたしも婚約者だったので知っているけれど、リューネの方が本物だ。すぐに学園長に相談し、昨日泊まらせてもらった時に王妃の署名入りで返してもらったのだ。
そんな事を話している間に、兵士たちが戻ってくる。
「大変失礼いたしました。殿下からは手違いでお二人の事は通達できていなかったけれど、丁重に持て成せとのご命令です」
「手違いね……まあここで帰ろうものなら、兵士たちが理不尽に罰せられる。行こうか、エリザベス」
「ええ」
アステル様が差し出した腕に手を絡め、あたしたちは兵士に案内されて大広間へ向かった。途中、痛いほどの視線を感じるが、アステル様は小声で勇気づけてくれた。
「大丈夫。注目されているのは化け物の僕だけだ。君も、僕だけを見ていてくれればいいから」
本当ならアステル様だって、ジロジロ見られたくなかったでしょうに。あたしは絡めた腕にぎゅっと力を込め、言われた通り彼の顔だけを見つめた。




