エリザベスという娘
エリザベスは、デミコ ロナル公爵家の現当主と当時公爵家に雇われていたメイドのアリナとの間に生まれた。公爵夫人のメアリー様は元々、学生時代にお父様と今の陛下が取り合っており、陛下の方がやや優勢であったと聞く。
それが覆ったきっかけが、神託であった。
【王太子の妃となる者は、輝くばかりの黄金の髪と青い瞳】
メアリー様は今も昔も、大変信心深い人だった。それは血の繋がらない不義の娘を、神託のために自分の子として引き取り、王太子妃候補として育て上げるほどに。娘としては育ててもらったと言うより、型に嵌められたとでも言うべき狂気を感じていたけれど。あたしが少しでも『娘』らしくない行動を取れば、教育だと言って鞭で叩き、それを見て育った義弟はしっかり影響を受けていた。
ともあれ神託により陛下 (当時の王太子)から身を引いたメアリー様は、お父様と結ばれたのだが。望み通り結婚できたのに、何故メイドなどに手を出したのか? おかあさんに聞いたところ、「公爵様は泥酔してらして、奥様と間違われたのでは」と、何とも曖昧な答えが返ってきた。あたしが生まれた経緯が適当過ぎて、しょっぱい気分になったものの、お父様に愛なんてものがあったとも思えないので、こんなものかもしれない。
メイドの妊娠を知ったメアリー様は、怒り狂っておかあさんを追い出した。彼女自身も身籠っていた事もあり、お腹の子にさわってはと宥めるのが大変だったそうだ。その後、微熱が続いた結果、赤ん坊は流れたと聞く。
一方、おかあさんはボーデン男爵に嫁ぎ、あたしを産んだ。その年の死産は異様に多かったのだけど、原因は分かっていない。母親が妊娠中に風邪を引いたせいではないかと言われている、が……リューネから聞いた『咲疹』の症状が気になるのよね。魔力を持つハーブ? そんなバカな。
あたしが五歳の時、テセウス殿下に関する神託が公表される。
【王太子妃は右胸に、薔薇の刻印のような痣を持っている】
それは殿下にとっても、あたしにとっても、呪いとも言うべき預言だった。公爵は聞いていた特徴からあたしの胸の痣の事を思い出し、今まで一度も会いに来なかったくせにおとうさんたちからあたしを取り上げた。
そうしてメアリーお義母様の娘として、王太子妃となるべく厳しい教育を施したのだ。
あたしは、あんなものが教育だなんて認めない。だけどお義母様の境遇を思うと、厳しく当たりたくなっても仕方がないと同情もしてしまうのだ。我が子は死んでしまったのに、旦那様と通じた憎きメイドの子は生きている。そして神託の告げた王太子妃として選ばれたのだ……どれだけ運命を呪っただろう。
だからせめて公爵家の娘にふさわしい自分になろうと、言われるままに作り上げてきたのだ。
エリザベス=デミコ ロナル公爵令嬢を――
まさかそれが今度は、婚約者に疎まれる事になるとは思いもせずに。




