魔女の病
「友達作りもそうだけど、情報収集でも学生である事は有利に働くわ。何せ学園の図書館は、国内随一ですもの」
公共の図書館に比べると、品揃えは段違いだ。エリザベスとしてのわたくしも、去年一年間はお世話になった。殿下に睨まれ友達もできなかったので、一人で息抜きをするにはぴったりだったのだ。
「情報とは、何を調べればいいのです……かしら?」
「全部よ、あなたを取り巻くの状況全て! ……と言ってもどれから取りかかればいいのか迷っちゃうわよね。
例えば、あなたのその痣。神託の内容と『エリザベス様』の噂を聞いた時、どこかで聞いた事があると思ってたのよね」
リューネは本棚から外国の言語で書かれた書物を抜き取り、パラパラと捲る。
「その本は……?」
「医学書よ」
女子学生の本棚に医学書!? しかも国外の! 実はリューネってかなり頭がいいのかしら。あたしの考えている事が分かったのか、きまりが悪そうな顔を見せるリューネ。
「別にそこまで博学なつもりはないけど、パパ……外相の影響で、この国にはない情報がよく入ってくるから、興味があるものだけ調べる癖がついちゃったのよ。
ほら、ここ。『咲疹』――百年ほど前、とある地域で若い女性を中心に広まった病気。花が咲くように全身の皮膚に発疹が現れ、高熱や幻覚・幻聴の症状が見られる。完治すると、体の一部に薔薇型の痣が残り……」
薔薇型の痣!? 思わず、服の上から痣を押さえる。あたしの痣は、この病気が原因だったの? あれ、でもこれは生まれた時からあったって聞いているし、リューネが言うような症状も覚えがない。
「リューネ、この『とある地域』ってクラウン王国の事ではないのよね? それに百年前って……」
「うん、これは外国の話だし、特効薬もできて見かけなくなった病気なのよ。
でもこの病気の怖いとこは、妊婦がかかった場合、胎児の致死率が異常に高くなる事。母体は普通にかかるよりも症状が出にくくなる代わりに、お腹の子に影響が出てしまうのね。だから大抵は死産になるまで発覚しなかったらしいわ。あと体に特徴的な痣ができる事で、魔女狩りの恰好の的にされたりね」
魔女と聞いて、牢獄で押し当てられた焼きごてを思い出し、震え上がる。神託の王太子妃候補を示す薔薇の刻印も、殿下にとっては魔女の証だったのだろうか。
リューネに訊ねたところ、実際に魔女の疑いから逃れるために、咲疹から完治した女性が手術や焼き印で自ら痣を消した例もあるという。
「それぐらい、忌まわしい病とされていたのね。現代に魔女と言われてもピンと来ないけど」
だって、魔法なんてある訳ない。神託のような『神の意思』とされるものはあるけれど、あれだって王族に関する事ばかりで政治的意図が絡んでいるとしか思えない。表立ってそうは言えないが、神や悪魔、魔法なんてものはおとぎ話なのだ。
「そうかなあ……原因は特定の地域にしか生えないハーブで、それを使った魔法薬と魔力の相性が合わない事で起こる拒絶反応だって書いてあるけど」
「それ、本当に医学書? 魔法だの魔力だの、急にオカルトじみてきたわね……」
ともあれ、外の世界にあたしの痣と似たような病気があった事は、覚えておこう。




