読み聞かせ
集められた子供たちの前で、私たちは自己紹介した。外見は変えているが『エリザベス』としてのあたしを知っている子たちがほとんどなので、声色を心持ち変えてみる。孤児院訪問は殿下から解放される貴重な一時のため、リラックスした話し方だったけれど、今は可愛らしく作った声だ。リューネ様たちには、子供たちと打ち解けるためとか誤魔化しておこう。
その次は、子供たちが名前を教えてくれた。さっきの喧嘩っ早い男の子がアーロン、庇ってくれた女の子がゾーイ。見知った顔がほとんどだったものの、あたしはさも初めてのように復唱してみせたのだった。
「それじゃ、今日は何して遊ぼうか?」
「ご本読んで!」
子供たちのリクエストに、院長から絵本が差し出される。この表紙は……殿下が牢屋まで持ってきたものだ。きっと読ませろと命令が出されているのだろう、彼女の目からは申し訳なさを感じる。だけどこれを読む事で、却ってエリザベスとバレにくいのかもしれないわね。誰しも自分を悪し様に書いた物語を読もうなんて思わないから。
「孤児院は読み聞かせの他、掃除やお洗濯も手伝うんですってね? それじゃリジーが読んでいる間、私たちはやり方を教わりに……」
「あ、俺が代わりにやっておくから、リューネは一緒に聞いてろよ。子供たちとの交流も学習の一環だろ?」
ロラン様のご実家はリューネ様より身分は少し下だけど、幼馴染みのためか気安い関係のようだ。リューネ様に「いいの? 悪いわね」と微笑まれ、赤くなってそっぽを向いている。……どうしてこの二人は婚約しなかったのかしら。
職員に連れられ、ロラン様が行ってしまうと、あたしが腰かけた椅子の周りに子供たちとリューネ様が座った。絵本を開いて彼らに挿絵が見えるように掲げると文字が読めなくなるので、なるべく読み慣れた話がいいんだけど……あたしはたった一度聞かされた、殿下の得意げな声が忘れようにも忘れられなかった。
「『あるところに、エリザベスという、それはそれは美しいお姫様がいました。お姫様の白金の髪はきらきらと輝き、瞳はまるでエメラルドのよう。人々はこう思います。「こんなにも美しいお姫様は、その心も美しいに違いない」……』」
「でも最後は王子サマの恋人を殺そうとするんだよな!」
「言っちゃダメ! リジーお姉ちゃんが読んでくれてるんだから!」
途中で子供たちの野次が飛んでくるのも、何もかも馴染み深い。こんなにも愛しい空間を、あたしの全てを取り上げて……そんなにもあたしが憎いのならば、その心の内をもっと訴えればよかったじゃない。陛下にも王妃にも、お父様にも! あたしには、回りくどい方法を取る殿下の思惑が、どうにも理解できなかった。
あたしを『悪』にした先にある、その望みが――




