二度目の入学式
あたしにとっては二度目の入学式となる今日。それまでに寮には続々と入居者が訪れていた。その中の何人かとは既に挨拶をしているけれど、仲を深めるかどうかはまだ決めかねている。万が一正体がバレたら、エリザベスの時のように態度を一変させ迫害してくるかもしれないからだ。以前は元々交流が少なかったけれど、仲良くなってからそれでは立ち直れない。
今年の入学式では、去年までにはなかった事が増えていた。ここに来た時から気にはなっていたけれど、校門にピンクの花を咲かせる木が何本も植えられていて、新入生はその花を胸に着けるのだ。ラク様の発案らしいと聞いたのだけれど、いくら異世界からの客人だからと言って学園内の決まり事は変えられないはず。……つまり殿下が通した事になる。
その当人は現在、舞台上で挨拶を始めている。
「新入生諸君、入学おめでとう。私はテセウス=ラ=クラウン……知っての通りこの国の王太子だが、学園内では身分の差は問われない。なのでここでは生徒会長として接して欲しい。
諸君らには三年間、この学び舎で有意義な学園生活を送ってもらいたい。勉学はもちろん、学友との交流においてもだ。ここで紹介するが、彼女はラク=ハイド殿。異世界から訪問された大切な客人だ」
そう言って殿下は、緊張でガチガチになっているラク様を舞台上に呼ぶ。
「彼女は諸君らより一学年先輩にあたるが、クラウン王国だけではなく、この世界についても学び始めて日が浅い。去年は愚かにも、それを理由に彼女を排除しようとする動きがあった。しかも恥ずべき事に、私の関係者からだ……誰とは言わんが、非常に嘆かわしい!」
誰とは言わん、と言いつつ、絵本まで作って情報拡散に勤しんでましたけどね。そしてどうしてそこでラク様の肩をお抱きに? 事情を知らない人たちでも、異世界人である事が理由ではないのを察してしまいますよ。
「我が王国にはまだ古い慣習も根強く残り、外の人間や価値観に対する差別意識はあると思う。だが諸君、せめてこの学園にいる間だけでも、そのような愚かな考えは捨て、共に学ぶ仲間として手を差し伸べてもらえないだろうか。
もし目の前で『友』を迫害するような事があれば、生徒会長である私の全てをもって止めさせてもらう……各々、心に刻んでおくように」
これ、いい事を言っているようで、ラク様をいじめたら権力で潰すって事よね? しかも止めるのは殿下が『友』と認めた相手のみ。それ以外は見つからないようにしろって……ああ嫌だ、五年間の婚約期間で殿下の言外が理解できるようになってしまったわ。
「あんな事言ってるけど、本当かしら?」
ヒソヒソと横から耳打ちされて驚いて振り向くと、一人の令嬢が悪戯っぽく微笑んだ。いけませんよ、誰かに聞き咎められでもしたら……という注意は、口から出てくる事はなかった。彼女の耳は、あり得ない場所についていたからだ。頭の両端に、まるで猫の耳のように――聞いた事がある、確か亜人と呼ばれる動物の特徴を身体に持つ種族だ。
「私、リューネ=リンクス。同じクラスなの、よろしくね」
「あ……リジー=ボーデンといいます」
リンクス侯爵令嬢――外相の娘で騎士団長子息ドロン=ライラプス様の婚約者だ。厳密に言えば彼女は亜人ではない。様々な国と同盟を結ぶ際、政略結婚が行われるのだけれど、リンクス侯爵家は獣人国家の王族と婚姻を結ぶ事が多かった。あの猫耳は、混血の結果だろう。
ドロン様は殿下の護衛を任されており、かつての同級生でもあった。あたしを断罪する際に取り押さえてきたのもドロン様だ。そんな彼の婚約者について、殿下は「醜い女を宛がわれて気の毒だな」とさも同情するような口振りだった。
けれどリューネ様はつり目だがとても愛嬌のある、可愛らしい顔立ちをしている。要するに殿下はラク様限定で外の人間との友好を説き、それ以外は蔑んでいる御方なのだ。




