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幕間①覆らぬ神託(王太子side)

【王太子妃は右胸に、薔薇の刻印のような痣を持っている】


 神殿に女神からの神託が下されたのは、私が六歳の時の事。

 愛と運命の女神アモレア――それが、我がクラウン王国の信仰対象だった。彼女は神官長の夢を通じ、代々国王となる者に関する預言を与えてきた。外れた事は、ただの一度もないという。


 ある時代の王は、【その墓は黄金で出来ている】という神託を受け、鉱山の発掘現場に自ら視察するほど黄金の夢にのめり込んだ。結果、古代王国の財宝である黄金の遺跡に辿り着いたが、あちこち採掘し過ぎたのが原因で、遺跡の倒壊を招き、落ちてきた巨大な黄金の柱に潰されて死んだ。

 別の時代の王の妃は、大層な肥満体だと預言された。そして最初に決められた婚約者もまた太り気味だった。これを不満に思った王は、婚約を破棄して彼女の痩せている妹を妃とした。病弱なため、長くは生きられないと思われたが、多額の医療費と当時最先端の医術で一命を取り留めた。姉と同じく大食漢でも病気のせいでいくら食べても太らなかったのが、健康体になった結果――


 つまり、愚直に従おうが逃れるために逆らおうが、預言は必ず当たる。そして従ったからと言って幸せにはならないという事だ。だったらそれは、最早『呪い』と言ってもいいのではないか?


 父上の時は、【王太子の妃となる者は、輝くばかりの黄金の髪と青い瞳】だと聞いている。

 学生時代の父上には、想い人がいた。恋のライバルは、あのデミコ ロナル公爵だとか……そう、想い人とは現在の公爵夫人メアリー殿の事だった。学園内では身分の差は問われないとは言え、公爵も王太子殿下相手では遠慮せざるを得ず、父上が有利なまま決着がつけられようとしていた。

 そこに、神託が降りたのだ。

 メアリー殿はプラチナブロンドの髪に、紫の瞳。そしてちょうど、敗戦国から人質として送られてきた私の母が、金髪に青い瞳だったのだ。女神の熱心な信奉者であったメアリー殿は、神託は絶対であるとして身を引いた。母オーガスタを側妃に、メアリー殿を正妃として迎えると言っても、頑として首を縦に振らなかった。

 恐らく自分以外を愛する事を許さない、非常に嫉妬深い性質だったのではないかと思われる。



 そんな背景もあり、私は神託に従いたくはなかった。しかし抗ったところで運命の強制力には逆らえない。鬱々とした気持ちで、決められた婚約者との初顔合わせが行われた。

 彼女は父のかつてのライバル、デミコ ロナル公爵の娘だった。聞くところによれば、病気のために生まれてからずっと公爵領で静養していたらしいが、神託通り薔薇の痣を持っていたので王都に呼び出したのだとか。母親似のプラチナブロンドの髪に、父親と同じ緑の瞳。十人中十人が美少女だと答える容姿だろう。

 父上は大層気に入り、きっとお前も好きになるはずだと言った。母上は、婚約するからには大切にしろと、いつになく強い調子で念を押してきた。


 私は、憂鬱だった。公爵からは、娘は殿下の事を前々から恋い焦がれていて、今日この日を楽しみにしていたと告げられていた。だが私は、神託に振り回された彼らが、何故こうも大喜びで神託に縋っているのか理解できなかった。


(人生をめちゃくちゃにされた神託が、憎くないのか? そのせいで破局したのに、子供の代で叶えばそれでいいのか? 子供の気持ちは?)


 また、私の気も知らずに無邪気に喜んでいるであろう婚約者にも腹が立った。たまたま薔薇の痣を持って生まれたから選ばれただけのくせに。女神の気まぐれが運命だの愛だの、絶対に認めてたまるか――

 しかし、現実は私の予想を斜め上で裏切ってきた。

 婚約者エリザベスは、事前に見せられていた肖像画と寸分違わず美しい容貌をしていた。それは間違いない。いや、完璧なまでに微笑みを、表情を崩そうとしないのだ。そのくせ、伏し目がちな目は底が知れず、こちらを見定められている気分に陥った。


「お前が私の婚約者だそうだな」

「はい、エリザベス=デミコ ロナルと申します。お見知り置きを」

「神託には将来の妃は薔薇の痣を持つと言われているが、私は神託などあてにはしない。お前のその態度は、媚びているつもりか? 隣でニコニコしていれば、私が喜ぶとでも?」

「お父様からは、そのように聞いております。殿下にふさわしくあれ、と」


 父親からは娘に頼まれたと言われ、娘からは父親からこうしろと指示されたという。お互いが相手を言い訳にして、望みを押し通そうとする姿勢には呆れしかない。

 生まれてからずっと、母上に似た容貌を美しいと褒められてきたし、幼い頃から令嬢たちからは媚びた目を向けられてきた。この容姿は、女を夢中にさせるものであると理解していた。この女も所詮はその手の類だろう。

 だがエリザベスの暗い瞳からは、感情が全く読めない。本当に私の事を好きなのか、何か良からぬ事を企んでいるのではないか、疑い出せばきりがない。まるで生きた人形にじっと見つめられているような、不気味と言うか居心地の悪さがそこにはあった。


 やはり神託はろくでもない。こんな女を妃にしたって、幸せになれるはずなどない。けれど預言は必ず当たってしまう……エリザベスに薔薇の痣があるばかりに。

 ……いや、私は抗ってみせる。運命など、決められた婚約など、何としても覆してみせる。


 私の神託への憎しみは、いつしか婚約者へとすり替わっていた。



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