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作られた悪役令嬢  作者: 白羽鳥(扇つくも)
学園祭準備編
102/111

愛の女神、夢の悪魔

 アステル様に纏わりつくアモレアに、もやもやした憤りが沸き上がってくる。


「何故、あなたはアステル様の夢に?」


 ムッとしながら訊ねると、アモレアはニヤリと赤い唇がつり上がた。


「それはアタシが愛の女神にして、夢の悪魔だから。実体を持たない神とはこうして触れられないでしょう? 夢を通じてアステルとは愛し合ってきたのよ」


 アステル様を苦しませておいて、あなたが愛を語らないで!


 激昂して口を開きかけるが、神の御前だからか悪魔の術中か、彼女を詰る言葉は出てこなかった。代わりに負け惜しみのような文句が飛び出す。


「……そんなの、愛じゃない」

「そうかしら? アタシが彼を貰い受ける経緯は知っているでしょう? 国に蔓延する病と引き換えに、王家はアタシに王子を差し出すと言ってきたのよ。だからアタシは彼らの願いを叶え、アステルの事も大切にしているの。

神も悪魔も本来は気まぐれな存在なのよ。ここまでしてあげているんだから、愛と言わずして何なの」

「アステル様の気持ちは、どこにあるんですか! 生まれた時から家族と引き離されて、化け物と蔑まれてきた彼が、その原因であるあなたを愛しているとでも!?」


 悔しくてたまらない。あたし自身、その願いを享受してここにいるのだ。それでも、二人が愛し合っているだなんてバカげた主張だけは否定したかった。


「愛する他、ないのよ。アステルにはそれしかない。誰にも愛されず、このアタシに縋る他はね。

だってこんなにも美しい男を、人間どもにくれてやるなんて、もったいないじゃない? あちらにはあちらの立場があるでしょうから、妻を娶るくらいは許してあげる。顔を背けたくなるような、醜い姿でよければね」


 そんな理由で。女神の独占欲によって、願いの代償に奪われてしまった本当の姿。

 歴代のディアンジュール伯爵も、本来愛を育めた人たちがいたのだろう。


(だとしてもあたしは……!)


「アステルだって、アタシ以外見向きもされないはずだったのよ。なのにあなたときたら、本っ当に物好きと言うか、価値観狂ってるわよね。美形の王子様よりも、化け物の方がいいなんて」


 ぎゅっと拳を握りしめた時、アモレアの詰るような言葉にハッとして顔を上げる。こちらをじっと見つめている彼女から、ニヤニヤ笑いが抜け落ちていた。


「アステル様は、どんな容姿をしていようと美しい人です。いいえ、痛みが分かる分、心がとても美しい人。あたしは、そんな彼を愛してる」

「それってただの同情よね? お互い傷を舐め合っているだけ……アタシから見れば、それこそ愛とは言えないわ」

「あなたに何が分かるの!!」


 同情と言われ、カッとなって声を荒げてしまう。境遇が不憫であるとか、彼の犠牲によって救われた事への罪悪感は確かにある。でも、決してそれだけじゃない。あたしがアステル様のそばにいたいという気持ちは。


 しかし愛の女神は、あたしの方こそ理解していないとばかりに言い放つ。


「本当にあなたがアステルを愛しているのなら、どうして彼の呪いは解けないの?」

「……え?」

「アタシは悪魔だけど、鬼じゃないのよ。契約上、彼の美しさを独り占めするために呪いはかけさせてもらったけれど、お互いに心から愛せる相手に巡り合った時は譲ってあげるくらいの譲歩はするわ。

ただ、クラウン王国史上で成し得た者は存在しないだけ」


 何を言っているのか分からなかった。解けない、魔法じゃ……ない?


「要するに、あなたたちはまだ本当の愛に到達していないという事ね。残念だけど、それまでアステルはアタシのもの」


 意味が分からない。本当の愛って何??

 アモレアに深く口付けられ、アステル様の金色の睫毛が苦しげにピクリと動く。心がバラバラになりそうなのに、引き留めようにも体は動いてくれない。それどころか、彼らを中心に凄まじい風が巻き起こり徐々に部屋から弾き出されそうになっている。


「もう勝手に入ってこないでね。アステルも、あなたにはこんな姿を見られたくはないでしょう」

「待って、あたしを拒絶しないで! アス――」


 彼女の台詞から、この風を起こしているのはアステル様なのだと悟る。彼はあたしが本性に、心に触れる事を拒んでいる? そんな事……


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ドンッと衝撃を受け、部屋の外に吹き飛ばされたところで、あたしは夢から覚めた。夜が明ける寸前の薄明かりの中、涙でぐしょぐしょになっていた。

 夢の中の事が、どこまで真実かなんて分からない。アステル様に聞いても、答えようがないだろう。何より、彼を困らせたくはなかった。でも――


(アステル様、あたしは……あなたがどう思おうと、ずっとそばにいます)


 愛の女神が二人の気持ちにどんな名前をつけたところで、あたしが決めた事は変わらなかった。



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