動き出した事態
一通り盛り上がった後で本題に入るのは照れ臭いが。あたしはリューネたちが焼却炉から拾ってきたという物をアステル様に手渡した。片方がネジ、反対側が円の形に曲がっている――リングボルトだ。
「……やっぱり」
「それだけで何か分かるんですか?」
「ああ、犯人――いや、協力者だな。彼らが何を燃やして、隠そうとしていたのか」
燃やすって……金属のネジが燃えるわけがない。まさか鎧を着ていた仲間を? いやいや、怖い事想像するなあたし。
「協力者はそんなに要らないんだよ。いくら神官長の目が見えないからって、大勢でドタドタ動いていたらさすがに気付かれるだろう? 鎧が倒れる音しか聞いていないのなら、せいぜい二、三人ってところだろう」
実際はそれだけしかいなかった? そして、少人数であの出来事を可能にする鍵が、リングボルト……
「うーん、あたしには分かりません! 教えてくださいよ」
「ハハ、まあ種明かしはお楽しみに取っておいてよ。もう少し検証もしたいし……どうせなら、一気に決着をつけたい」
肩に手を置き、声色を低くしたアステル様にドキリとする。あたしの婚約者には、テセウス殿下ぐらいの美貌なんて要らなかった。彼はずっと一人で苦しんできて、明るく振る舞っていても内に暗い感情も秘めた、あたしたちと同じ人間だ。
(決着……アステル様を取り巻く問題全てに決着、か)
それが必ずしも現実の状況だけではない事を、あたしはもう知っていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あたしは、アステル様の部屋の前に立っていた。
唐突だけど、今の状況は分かる……これは、夢だ。今日は久しぶりにラク様の実験に付き合ったから。つまり、トドキ草の煮汁を口にしたという事だ。
(あれを飲んだ日から、あたしはこの不思議な夢を見るようになった)
試しにノブを押したり引いたりしても開かない。が、何故かあたしはこの部屋の主に呼ばれているような気がした。
コン、コン
無理に開ける事をやめ、ノックをするとあっさり開く。
そこには、想像していた通りの人物がいた。椅子に腰かけ眠っている金髪の美丈夫と、彼の膝に座りしな垂れかかっている銀髪の美女。男性はテセウス様そっくりだが……
「アステル、様」
呼びかけても反応がなく、瞼は固く閉じられたままだ。銀髪美女はクスッと笑うと彼の首に腕を回した。
「あーあ、バレちゃったのね。彼、あなたにだけは知られたくなかったのに」
「誰なんですか、あなた」
「よぉく知っているはずよ。この国の者なら、それこそ生まれた時から」
そう言われて思い浮かぶのは、一人しかいない。アステル様が赤ん坊の時に契約を結んだという、この国が崇拝する神とも悪魔とも呼ばれている――
「対面するのは初めてになるのかしら? アタシは『アモレア』、よろしくね。本来なら会える者も限られているのだけど、面白い偶然が重なったものね」
そう言って女神アモレアは、眠ったままのアステル様の顔を愛しげに撫で回した。




