学園長の提案
「王立学園内では、独自の規律により運営されています。もちろん、王国の法に外れない範囲でですけれど。
それは、死罪判決が出ない限りは卒業に必要なだけの単位を取得していただくという事。幽閉が必要ならば、教師を派遣し、そちらに参考書を差し入れ個人授業を受けていただく場合もあります。何故ならば、身分の差を越えたこの学び舎に入学する事は、王国にとって将来有益となる成果を残せる力を身に付けるという契約だからです。……まあ、年齢による減刑の意味もありますけども。
とにかく、エリザベスさん。学生には学生の責任の取り方があります。あなたには我々教員監視の下、しっかり卒業までの単位を取得していただきますよ」
なるほど、これはけじめというものか。処罰としてはほぼお咎めなしに見えるけれど、形だけでも学園側は『罰した』事になる。だけどこれだと、殿下側にとっては一番煮え切らないやり方ではないだろうか。だからこそ、寮の女生徒(恐らく殿下シンパ)の暴走を招いたのだろう。
そこへ、エミィが発言の許可を求めてサッと手を上げた。
「学園長先生、お言葉ですがお嬢様は罪人扱いを受け、生徒たちから執拗ないじめを受けています。このまま通い続ければ、間違いなくエスカレートしますし、その被害はラク=ハイド様の比ではなくなりますよ」
「その事なんだが、エミィ。我々は学園長と相談し、リジーを一年から入学させ直すのはどうかと提案したのだ。別人としてな」
入学し直す? エリザベス=デミコ ロナル公爵令嬢ではなく、リジー=ボーデン男爵令嬢として……
「これは単に、けじめだけの事ではないのよ、エリザベス嬢。学園での経験は、今後の人生の縮図となるのだから、決して無駄にはならないわ。身になる知識と信頼のおける友を手に入れ、逆境を切り開く力としなさい」
「逆境を、切り開く……」
「将来の娘になっていたかもしれないあなただからこそ、せめて人生を楽しんで欲しいのよ」
どれだけ自己防衛しようとも、悪意はその隙間を縫って襲いかかってくる。そして王妃や両親、学園長が守ってくれようとしても、相手は狡猾なのだ。だけど……何もせずに俯いてばかりいた結果がこれなら、わたくしはもう逃げたくない! 幸せな人生は、戦って勝ち取らなきゃ!
「王妃殿下……学園長……おとうさん、おかあさん。わたくし、もう一度頑張ってみます。今度は自分自身のために!」
わたくしがそう宣言すると、エミィにぎゅっと飛び付かれた。王太子妃への道は絶たれたけれど、わたくしの人生は今、やっと始まったばかりなのだ。あの公爵家や殿下とも縁が切れたんだもの、それだけでも幸先いいと思わなきゃね。
「そうだわ、エリザ……いえ、リジー嬢。あなたの次の婚約者である、アステル=ディアンジュール伯爵の事なのだけれど」
王妃の言葉に、わたくしの頭から忘れかけていた婚約者の存在を思い出す。そう言えば代替わりして、今の伯爵はわたくしと同い年だとジュリアンが言っていた。
「学園では、いずれあなたとも会う事になるでしょう。詳しい事は制約によりわたくしの口からは言えないけれど、彼は……ディアンジュール伯爵家は、『祝福』を受けるための人柱。あなたと同じ、王家の犠牲者なのです」




