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小咄其の七 『巣箱の鳥』

今回のちょっと怖い小咄には残酷な描写があります。ご注意ください。

 町外れの神社の裏にある巨木、名前はないがいろいろ曰くがあるらしい。


古い鳥の神様を奉っており、一心に願いをかければ人を鳥に変化させ、飛び立たせるというのだ。木の前の祠はちょうど人が入れる大きさである。酔狂な者なら中に入ってみようと考えるかもしれない。刑事という仕事柄、私は中を覗いてみた。手配中の強盗殺人犯がこの付近に潜伏しているらしいのだ。万が一、ということもある。


 ぎい、と古ぼけた扉が開く。


 中は…淀んだような暗さ。いくら目を凝らしても中が見えない。かといって人がいる訳もない。葉で廻りが薄暗いせいだろうか。諦めて扉を閉めようとしたとき。

「にゃあ」

木の実を啄ばむ小鳥を追って、猫が中に飛び込んだ。

鍵がついているわけでなし。踵を返していた私は気にもとめずにそのまま神社を去った。



 三日後、祠の嫌な言い伝えを聞き、胸騒ぎがした私はまた巨木の前に立っていた。伝説によると、邪な者しかその祠はくぐれない、というのだ。


 くぐる?


と、いうことは、あの祠には抜け道があるのでは? 昔の罪人が逃れるためあの場所に隠れ、なおかつ他の場所へ逃げ出せるようになっていたとしたら。


私は祠とその背後の巨木を調べた。…だが、そんな仕掛けなどどこにもなかった。あったのはちょうど巨木をはさんで対の場所に掛けてあった、鳥の巣箱だけである。落胆し、帰ろうとしたその時。微かな鳴き声が聞こえた。幻聴ではない。猫の鳴き声だ。

どこから?

耳を澄ますと、それは、その巣箱から聞こえてくるのだった。とりたてて変わったところもない木の箱。だが、その穴は何も見えず、濁ったような黒が蠢いているようにも思えた。


 また猫が鳴く。

今度ははっきり聞こえた。そして。

ぐじゅる、と柔らかい何かと液体がたてるおぞましい音。

 私は巣箱の穴を覗き込んだ。鼓動が早くなる。つばを飲み込む音さえ聞こえる。精神は見るのを拒絶するのに、目を離すことができない。黒い穴は、私を見つめ返す瞳となっていた。


「ぎ、にゃあぁ」


 突然噴出す血しぶきとともに「それ」はずるりと飛び出してきた。咄嗟によけた私は吐き出されたものに目をやった。


鳥の頭の大きさに、潰され、ねじれ、伸ばされた肉の棒塊。嘴のように尖った先は血まみれだが猫の鼻のようにも見えた。恐怖に私は立ちすくんだ。


携帯が鳴る。我に返った私は電話を受けた。犯人が2日前に祠に入ったのを見たという通報があったらしい。


 ゆっくりと、


私は暗く濁った穴を眺めた。再び聞こえる穴の奥からの音と叫び声を聞きながら。




                                     < 終 >

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