小咄其の弐拾伍 『太陽がくれた季節』
じりじりとアスファルトも溶け出す午後。
「しかしどうよこの暑さ! いきなり夏が戻ってくるんだもんなぁ。」
溶けたフラッペの残りをスプーンでかき混ぜ、杉裏太陽くんは毒づいた。
「ほーんと。なんだか紫外線、強くない? なんだか火ぶくれみたいなの、出来てるしー。」
彼女の吹雪一恵さんも汗を拭きながら、二の腕にぷっくり膨れ上がったデキモノを睨んだ。つやつやと、ピンクに膨れ上がったそれは杉裏くんのかっこうの餌食になった。コネコネとスプーンでデキモノを弄ぶ。すると。
ぱん!
いきなりそれは破裂した。が、
「何すんのよ! …あれっ? 膿も血も出ないわ。『何もない』わ。なんだか変なの」
「まるで風船みたいだなぁ。やっぱ異常気象とか、オゾンなんたらが環境うんたら、ってヤツか?」
「わかんなーい。でもなんだか面白いかもー。」
その後も変なデキモノはそこかしこに膨れ、つつけば破裂した。彼女だけではない、ほとんどの人がデキモノをぱんぱんやっていた。
暑さのせいだろうか。痩せた人が目立つようになったころ、不思議なデキモノはどこにも、誰にも見えなくなっていた。面白くないのは杉裏くんである。自分にも吹雪さんにも「暇つぶし」は見つからない。
「あー暑いしつまらんし! またアレ、ぱーんって出来んかなあ」
タコヤキの爪楊枝を振りながら毒づく。その時。背後で「ぱん」っと音がする。
「あれ、一恵またデキモノ…?」
吹雪さんがいない。
「? どこ行ったんかなぁ。」
てもちぶたさに、ピンクでつやつやと膨れた自分の頬に楊枝を立てた。
ぱん!
破裂音とともに杉裏くんの服だけが残った。
<おしまい。>