小咄其の弐拾四 『就活』
「本当にこんな好条件で、俺なんか採用してくれるんスか?」
会社説明会で。就活中の半平太君は思わず叫んだ。
「もちろんです」
人事担当の男はにっこり笑った。
「だって…あ、し、失礼しました。そ、そちらは世界で名立たる有名製薬会社ですよ。こんな俺みたいな三流大卒の取り得もない負け組みを…いや、その」
緊張してうまく喋れず、失言ばかり繰り返す彼を見ても人事の男は対応を変えない。
「大丈夫です。あなたは生涯当社の保険で暮らすことが出来ます。仕事は単純なものですし、お住まいも食事も提供致します。…どうです?」
「はーい! 行きます入ります、やったア俺もエリートサラリーマンだああ!」
人事の誓約書を読むこともなくOKを出し、入社日を尋ねる半平太。なんと今から職場に案内するという。契約書を交わし、ビルの地下に行くと…金庫のような鍵のついた部屋があった。
「あの、ここ、なんの仕事を?」
実験室のような、薄暗い部屋。薬品と血のまざった匂い。奥にはさらに頑丈な鍵がついた扉が。
「当社の新開発した薬品を定期的に投与します。後は経過を我々が見るだけ。なに、あなたは何の心配もいりません。いや…心配する気持ちもなくなりますし…」
人事の男が薄く笑った。
「は、はあ…」
半平太君は、ちょっと適性が合わないかな、と考えた。
奥の部屋の鍵が外され、扉が開く。人と獣が混ざり合ったような唸り声、叫び声、もろもろが聞こえてきた。
<おしまい。>