小咄其の弐拾参 『ビューティコロシアム』
「最近のナオミはどんな顔だ? 母さん」
ショーン=コネリーそっくりの顔で大塚ケンイチ(仮名)さんは妻のヒロミさんに聞いた。
「さ〜ねぇ、今年に入ってからはあんまりしてないみたいよ、整形手術。携帯代が掛かってるからって」
ヒロミさんはオードリー=ヘプバーンの顔でモンローの胸を揺らし、応えた。
「最近はプチ整形も飽きられたのかな? ワシらの若い頃はみなこぞってアイドルや俳優の顔や体に憧れて、月に2度も3度も整形したのに。」
「はいはい。あなた私との見合いの時も『親と顔つきが違う』って私が言ったら、親の顔まで整形させたもんねぇ…」
「だいたい近頃の若いモンは決断力もないし軟弱すぎる。何故親からもらった大事な体をもっと改良しようとせんのだ?」
ケンイチさんはシュワルツネッガーの腕を振り上げて叫んだ。
がちゃり、と玄関で音がする。
ちょうどその時直美さんがマスクとサングラスをしたまま帰宅し、2階の部屋に行こうとしていた。
「待ちなさい、整形したなら顔を見せておきなさい。お客と間違えるだろ。またワケの分からない外タレか何かか?」
ナオミはのろのろと応えた。
「私こういうの決めるのってメンドくてぇ、なかなか一つにしぼれないからぁ」
彼女はゆっくりと、マスクとサングラスを外した。
「この次きめよーと思ってぇ…」
頬に青い目が二つ、高く通った鼻がひとつ、ナオミの顔には余分に付いていた。
<・・・おしまい。>