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小咄其の拾九 『ながい髪』

(けっこう怖い話のつもりなのでご注意ください)

 整えた髪からするり、とヘアブラシをひきぬく。途端に男は険しい顔になった。

(まただ…)

50センチはあろうか、長い黒髪がブラシには巻き付いていた。


心当たりがない訳ではない。

肩まで伸ばした茶髪に端正な顔立ち。男はかなりもてるほうである。言い寄って来た女性も多いし、現に今も二股をかけた女のマンションから朝帰りをし、身支度をしていたところである。

「――あの女、こんなに髪が長かったっけ?」

男はからまった髪を洗面所に投げ捨てた。


 男は女癖が悪いのは変わらなかったが、いつからかセミロング、ショートヘア女性とばかり付き合うようになった。時には無理やり髪を切らせることすら。それでも


するり。


「なんだよ! どいつの髪の毛なんだ?」

髪をすくブラシや指にからまる長い黒髪。男は日増しに神経質になっていった。ナンパや合コンの回数が減り、盛り場に悪友と行く回数も増える。そんな時、遊び仲間が酒場でひそひそ話すのが聞こえた。


「×××、あの子やっぱり自殺なんだってな。」

「ああ、あの長い髪の…」


「!」

男は二人につかみかかるように女のことを聞いた。

「な、なんだよ、お前が前に付き合っていた子じゃないか」

「振られたせいじゃねえの?」

思い出せない。

確かにそんな女もいたが、顔すら覚えていない。平凡な、特徴もない、ありきたりの…だが、確かに見事な黒髪だった。それだけは記憶にある。男は息せききってマンションへ戻った。言いようのない不安感、恐怖。ドアの鍵を閉め、顔を洗い、ばりばりと髪をかき乱す。

(いったい、なんだってんだ?)

そんな髪の毛しか特徴のない奴なんか、振られて当然だし、忘れられても仕方がない。そう思い込もうとし、自分の茶髪からかき乱した指を抜く。


 ずるり。


黒髪が大量に引き出された。


「う、うわあああああ!」


男は必死にからみつく黒髪を引き抜こうとした。


 ずるり、ずる。


震える手にそれは生きているかのようにまとわりつく。どうして捨てるのか?、と非難するように。


「ひ、ひ、ひいぃッ! だ、誰なんだよ!」


男の悲鳴が絶叫に変わる時。


 ずるうり。


男の頭部から、黒髪とともに女の頭部と、額と、恨めしげな目をした顔の一部が現れた。

 男は思い出した。「それ」が誰で、どんな顔をしていたかを。どれだけ髪を大事にしていていたかを。髪の毛だけに執着する女に嫌気がさして、ひどい悪態をつき女を捨てたかを。

 

 崩壊する意識のなか、男は思い出した。



                                   <おしまい。>    

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