小咄其の拾六 『ほんものの…』
「うーむ困った。」
「どうしたんスか? 鶏冠部長」
ここはとある食品会社。営業部長と部下が人目もはばからず何やらきな臭い話をしている。
「おお、牛尾君か。我が社で販売している『霧ノ中牛』なんだが、実は…●国産のものなんだよ」
「…それって今流行りの食品偽装ってヤツ? まずいッスよ部長!」
「それと賞味期限も少し延ばしててな」
「マジ?」
「たまに豚とか混ぜてるんだが」
「ガチ?」
「君はどこかの元総理の孫か? ともかく今でさえ味がよろしくないと返品が多いし、在庫もわんさかだ。しかし長年売り続けた『霧ノ中牛』、なんとかブランド名は残したいのだ。」
「う〜ん、難しいっスねえ。とりあえずのど乾いたんでコーラ飲んでいいっすか?」
のんきにノロノロ飲み物を探す牛尾。鶏冠もそれこそ鶏冠に来た…怒り心頭に発した。
「――バッカモーン! お前はなんでそう緊張感がないのだ? くそ、ゼロカロリーだかなんだか知らんが 似たような飲み物ばかり出て…あ”!」
鶏冠部長はぽん、と手を叩く。
こうして食肉加工業『モンタナ吉凶』(仮名)から登場した新ブランド『霧ノ中牛0(ゼロ)』は、パッケージも新しく『国産0%』を堂々と標記した画期的なものであった。
…もちろん、誰も信用度0%の肉を買おうとはしなかった。
<おしまい。>