小咄其の拾伍 『レーダー探知機』
深夜の高速道路。けたたましいアラームがランプとともに車のダッシュボード上で鳴り響き、人工的な女性の声がした。
『ステルスにご注意ください』
「うんっ、これは…そろそろスピード、落としたほうがいいな。」
運転している三船半平太はちら、と機械を見る。
「お〜っ、これが新しいレーダー探知システムか〜?」
助手席に座っていた友人があまりの派手さに驚きと感嘆の声をあげた。その反応に三船は満足そうに答えた。
「すっげぇだろ? しかも」
先刻とは違う音色で銀色の小箱は、『Nシステムを受信しました』と告げた。
「へ〜っ、こりゃいいや! これならオマワリなんかチョロいや」
三船はさらににんまりとして言った。
「だろだろ? さらに」
機械は次々と警告し、点滅を繰り返す。
『オービスに注意。あと50メートル…』
指示に従い、事なきを得た三船は破顔のまま一般道路に降り、車を爆走させた。すると、
『危険です!』
「お、おい、"危険"って?」
さすがに友人もうろたえた。
「あー、大丈夫。パトカーがどこかで張ってるんだろ。よくある事。」
こともなげに三船は切り返すが、アラームとランプはさらに激しくなるばかりだ。
『大変危険です!』
「おいおい、ホント大丈夫かよ!?」
友人はもう顔色もない。
「だっいじょぶだって! パトカー、20〜30台くらい待ち構えてるんだろ、きっと」
三船の表情は見えない。
はたして、前方にパトカーのライトやバリケードが見え出した。警官らしき姿も見える。赤く光る棒や、それから…
「おいおいおいっ! あれ銃、持ってないか!? ってか、構えてないか〜!」
友人は半狂乱である。
「大丈夫」
突然、銀色の小箱から鋭い光が打ち出され、遠くに見える赤いライトの塊を嘗め回した。一瞬の静寂のあと、大爆発の中を三船の車は突き抜けていった。
「三船お前、な、なにやったん――」
氷のように固まった友人に三船は悠然と言った。
「な、大丈夫だったろ? この機械、新型だもん。」
<おしまい。>