小咄其の拾壱 『国家からのプレゼント』
第十話 国家からのプレゼント
軽佻浮薄なこの国で、最初は勢いが良かったが今やすっかり落ち目の首相、小泉半平太から全国民に向けての演説があった。
「あー、国民の皆さん、景気回復も構造改革もまだまださっぱり進まず、ほんとーに申し訳ない!」
全然申し訳なさそうではない声がこだまする。
「せめてものお詫びに、政府は国民ひとりひとりに、新型携帯を無償でプレゼントすることにした! おじいちゃん、おばあちゃんから赤ちゃんの分まである。存分に使ってほしいっっ!!」
税金も援助もいやだがタダならなんでも欲しい、という国民性にこの政策は受けた。瞬く間に携帯普及率は100%を超えた。首相はまた「時の人」に返り咲いた。
官邸でにやつく首相に秘書が静かに声をかけた。
「総理、今回はうまくいきましたな」
「ああ、おかげで国民全員にID番号を登録することが出来たよ。やつら勝手に個人情報もドンドン入力するし、代金は税金で引かれていることも気付かんし。・・・住基ネットなぞ使わんでも最初からこーすりゃ良かったんだ、わははははは、は。」
得意満面で部屋を出ようとする首相は思い出したかのように秘書に囁いた。
「待ち受け画面に私の顔写真、着メロに我が党のテーマソングをそれとなく紛れ込ませるのも、忘れるなよ、うん」
秘書は頭を下げ、首相を見送った。
<おしまい。>