感想戦をする二人
手は届くのに心の距離は遠かった。君の仕草はいつも僕を軽く傷つけた。やっぱり興味なんか持ってもらえないよな…って失望する。
でも別にいい。将棋を指す時だけはこの距離で君と向かい合っていられるのだから。
まぁ、考える顔がかわい過ぎて将棋どころでは無いのは当然だけど。
やっぱり彼氏とかいるのかな?話しかけたいけど集中して考えてるし、話しかけれないのが辛い。早く感想戦にならないかな…。そんな事考えてる間に部活が終わる時間がきて、君は慌ただしく去っていく。くそっ、話したいこといっぱいあるのに。
そう思うところまでもはや定跡と化している。
でも、今日くらいは喋りたい。話題は…どうしよう、やっぱり将棋のことかな…。でもそんな話題で引かれない?いや、逆にそれ以外で話題合う部分あるのか?駄目だ、手が見えない。
「お前は彼女とかいなさそう笑」
君から話しかけてきた時はびっくりした。けど嬉しかった。
「おいおい、いきなりひどいな」
「え、逆に居るの?」
なんでそこでちょっと俯くんだよ。変な期待するじゃねーかよ。
「いや、おらんけども笑」
「ま、そうだろーねー」
嬉しそうに君が笑う。初めてだこの気持ち。幸せで満たされていく。
「そーゆうてめぇは彼氏いんのかよ?いつもやけに慌ただしく帰っていくけども?待ち合わせでもしてるんですかねぇ」
「あれは塾が忙しいだけ!彼氏とか私に見合う人が周りに居ないだけだし。作ろうと思ったらいつでも作れるもん!」
自分が君に見合う人じゃないことは分かってたけどさ…結構深めに刺さるぜまったく。
「ほんまに作れるんか?」
「は?当たり前。多分私の事好きやなって奴何人かおるし」
あぁ、反論の余地がねぇよクソ。
まぁでも今日は楽しい。もともと付き合うなんて諦めてた事だし。いっぱい喋れたし。
今日は満足……か?ホントに?
なんだろう、この不快な気持ちは。
今日もまた時間が来る。このまま、また定跡に合流するのか?
「嫌だ」
それが僕の答えだった。
「あのさ。一緒に帰らない?」
「っていう流れ。」
「へ〜、ていうか私の方も好きって分からんかったん?」
「見合う人おらんとか言うといてよく言うわ笑」
「あれを言いまくってたのが悪手か。」
「こっちにとっては厳しすぎる一手やったぞ。けど、一緒に帰ろうは勝負手やったやろ?」
「それはそう笑」
机に置かれた将棋盤の向こうで君が笑う。
将棋をしながら“君と出会った時からの感想戦”をする日曜日。
「あれ、局面いつの間にか悪くなってる」
どうだと言わんばかりに君がこっちを見る。
まぁ負けてもいいさ。君がずっと向かいに居るなら僕はそれだけでいいよ。
作者は高校将棋部経験者で実際に好きな人がいたとかいなかったとか。
ということはこの話、実話………ではないんです!残念ながら!
ベタで甘い青春の恋と幸せなエンドを楽しんでいただけておりましたら幸いです。