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異世界通いと契約ヒロイン  作者: 秋月創苑
第一章 はじまりはチュートリアル
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1-6

1-6.


 PiPiPiPiPiPi…


 目覚ましの音で拓は起きた。

 目を開けると見慣れた自分の部屋の天井。なんの面白みも無いが、今朝はなんだか新鮮に映る。


 枕元に視線を向けると、そこには本の形を取った魔道書(マジカ・ムタレ)

 昨晩のあれは夢か幻か…そんなことを思いながら魔道書の表紙を捲った拓の疑問はさらに深まることとなった。

 いや、考えようによっては、むしろスッキリしたのかもしれない。


 昨日までは白紙だったそこには、日本語による文字が書かれていたのだ。

 さっと目を通すと、ネーレの導きで異世界(プリモーディアル)に潜った昨晩の様子が簡素な文章で綴られていた。

 そして最後には四角く線で囲われた箇所があり、Lv.2、ヴィヴィの町近くの魔の森、そして採取した解体後の素材を含めた、収納してるアイテムの名前が記されている。

 おそらく最後にセーブした状況が書かれているのだろう。


「なんなんだ、これは…」

 すっかり眠気も吹き飛び、拓は呆然と呟くのだった。


 朝食の席でも学校でも、拓は自分の身に起こった出来事について考えていた。

 あまりに非常識なことであり、それでいてよく知るゲームや漫画、ラノベなんかで描かれる世界のようにも思えるから、どことなく納得している気持ちもある。

 異世界や魔道書のことももちろんだが、ネーレという胡散臭い美女も気になる。

 健全な意味で、だ。


「タク、はよ。なんか調子良い?」


 二時間目の終わった休み時間、教室の外の廊下で悪友が話しかけてきた。

 悪友、というほど悪いことしてるわけでは無いのだが、何となく友達、と呼ぶのも気恥ずかしくて、そんな括りにしてしまっている。

 柴田文男。シバ、タクとお互い呼び合っているこの男とは、高校入学時からの付き合いだ。

 お互いゲームや漫画なんかを貸し合ってる。

 クラス内にも友達と呼べそうな相手は少しはいるが、趣味嗜好の範囲がかなり被っていたせいか、この男と行動する事が一番多い。

 気が置けない間柄と言い切れるのは、彼だけだろう。


「その様子じゃ、昨日買ったゲームが具合良いんだな。」


 探るように聞いてくるシバの言葉に、そういえば昨日はゲームを買いに行ったところから始まったんだと思い出す。

 ずいぶん濃い一日だった。

 話題に出ているゲームは結局プレイしてないし、なんだかんだでPCの起動すら昨日はしていないのだ。

 曖昧に答えを返し、先日借りた漫画の話にシフトチェンジしてその場をやり過ごした。


 結局、帰宅して宿題をやっつけ、風呂に入り、夕食を食べるまで、拓は同じことを延々と考えていた。

 色々分からないことは多く、警戒しなければならないこともあると思ってはいるが、突き詰めてみると最後に残る感情は、またあの異世界へ行きたい、冒険がしたい、ということだった。

 拓にとっては超絶リアルなゲームで遊ぶ感覚なのだろう。


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 そんなわけで夜23:00。普段寝るにはまだ少し早い時間だが、待ちきれなくなった拓は魔道書片手にベッドに潜り、目を瞑る。


 次に目を開けたとき、やはりそこには森の木々と高く昇った日があった。


「タッくん、ちーっす。今日も元気に異世界ランデブーしちゃいますか!」


 やっぱりネーレもセットだった。


「あー、何すかその授業参観に来た親を見る思春期の子みたいな目は!

 あたしだってタッくんが心配だからこそ、こうして健気に足を運んでるんすよ?」


 そう言ってわざとらしく頬を膨らませながら、ネーレは拓に近付いた。


「それで、一晩たって調子はどうっすか?」


「うん、たしかにネーレが言ってた通り、最後の魔狼戦で怪我したところや、疲労なんかは全部朝起きたときには回復してたよ。」


「でっしょー?これで安心してモンハンできるっすね?」


「いや、そう割り切れるもんじゃないけど…」


 満足げなネーレに苦笑気味の拓。


「それはさておき、あたしもいつも来れる訳じゃないっすから、チュートリアルの残りを片しちゃいましょう。

 比較的安全な森っすけど、最低でもLv.4くらいは無いと一人で抜けるのは厳しいっすからね。」


 一人で森を抜ける…か-


 そんな拓の不安な表情を見たのか、ネーレが明るく言う。


「そんなに心配しなくても大丈夫っす。タッくんはちゃんとあたしが独り立ちさせてみせるっす。

 あ、なんか『ひとりだち』って言葉ちょいエロっすね。だめっすよ、変な想像しちゃ?」

 そう言って変なポーズを決めながらパチンとウィンクをするネーレ。


 イラッとする拓だったが、なまじネーレが美女の為か、悶々とする気持ちも少しだけわき上がり、女性にあまり免疫の無い拓の心は翻弄されるのであった。

 

「ところで、この魔道書ってすごく便利だけど、他の人でも使えるの?」


「いえ。登録した人にしか使えないっす。

 もし仮にパクられても、自然と手元に戻ってくるから安心設計っす。」


「ふーん。」


「前にも言いましたけど、これはタッくんをこの世界に適応させるための物っすから、この世界の言語や文字なんかも自動で翻訳してくれる優れ物っす!

 そう簡単に壊れたりしませんが、大事に扱うですよ?」


*2/24 誤字修正しました

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