1-3
1-3.
「いいですか、タッくん?さっきも言いましたがこの世界 は君の住む世界とは違います。
魔素が満ち、それを取り込んだ魔物が生き、そして生き物が魔法を使う世界なんす。
科学が発達した文明社会とは根本が違ってるんす。
そんなある意味原始的な世界にタッくんが適合するには、それなりにチューニングが必要になるんす。
そこで登場するのが~?」
両手の手のひらを揃えて拓の方に差し出しながら、ネーレは何かを訴えるような視線を向けた。
ほら、わかるでしょ?とでも言いたげにチラッ、チラッと目線を合わせてくる。
流石の拓も軽く苛立ちを覚えながら、それに答えた。
「魔道書?」
「んー、せいか~い!!」
パチパチとおざなりな拍手をしながらネーレは褒めるが、普通は分かるだろと拓はさらに苛立つ。
「はい、では改めまして。タッくん、今の自分の格好を眺めて欲しいっす。」
言われて自分の姿を見て、寝る前のTシャツ・ジャージでなくなっていることに初めて気付いた。
ややゴワゴワした生地の黒い服を上下ともに着ている。もちろん自分の持ち物では無い。腰に巻かれている太いベルトも、粗雑なバックルも。靴は厚めの皮素材をソールに、つま先周辺と踵の周りを柔らかな皮で覆い、太い紐で結んだサンダル風だ。
「その格好は、魔道書に登録してある初期装備っす。いわゆる『ぬののふく』ってヤツっすね。
さらに、武器、防具も一式プリセットしてある大サービスっす。初心者装備で安心異世界の旅へ!」
ペタペタと見慣れない自分の服装を触っている拓を尻目に、なおネーレは解説を続ける。
「ARウィンドウの左にあるメニューを見るっす。『装備』の項目を指でタッチすると所持品から実際に装備できるので、早速やってみるっす。」
宙に浮かぶARのタッチパネル的ウィンドウに恐る恐る触れてみると、確かに指先がなぞる辺りに反応がある。「装備」に触れると、画面中央にポップアップウィンドウが開き、左右に罫線で仕切られた表らしき物が現れた。
左の表には上から
・カシバ布のシャツ(低品質)
・カシバ布のズボン(低品質)
・水牛の革靴(低品質)
とある。
右の表にもいくつかの品名が並んでいる。
・カシバ布の帽子(低品質)
・アルマジロの小手(低品質)
・低品質鉄のショートソード(Lv.1)
拓は半ば直感的に操作する。右から左に、一つずつ品目をドラッグアンドドロップの容量でスライドさせていく。
全ての品目を移し終えたところで、小ウィンドウの隅にある×マークに触れると、左手に小手が、右手は握りしめるように剣を持っていた。どうやら頭にもニットキャップのような形状の帽子が被せられているようだ。
一体どんな理屈なのだろうか、さっぱり理解が追いつかないが、なるほど確かに魔道書とはすごい道具なのだろう。
「うん、馬子にも衣装ってやつすかねー。現地人らしくなってきたっす。」
とても褒め言葉には思えないが、ひとまずネーレは満足したようだ。
拓はと言えば、ショートソードとセットで現れた鞘と剣帯を腰に装備させるのにさっきから手間取っていて、話を上の空で聞いている。
「それじゃぁ、ジャンジャン行くっすよ。チュートリアルの開始っす!」




