4-12
ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます。
今回で、異世界通いと契約ヒロイン、一旦完結致します。
読んで頂いた方皆様に、たくさんの感謝を。
特にブクマ、評価、感想等、この作品の為にわざわざひと手間を取って頂いた方には、本当に感謝が尽きません。
今回はエピローグ的な話になりますが、どうぞよろしくお願いします。
「ふあ~~ぁ」
顎が外れるんじゃ無いかと思うほどの大あくびをして、壁に掛かった時計を見る拓。
まだ昼休みまで5分ほど時間がある。
だが、もう限界だ。
潤んだ瞳で黒板をぼーっと眺める。
異世界へのおかしな時間帯のログインをしたせいか、リズムが若干狂ってしまったようだ。
身体の疲れは魔道書のおかげで無いようだが、どうにも体内時計が噛み合っていない気がする。
リヴァイアサンという、アンデッドでも無ければ到底倒せなかっただろう魔物との戦いは、実に多くの経験値を得られただろう。
レベル的な話もそうだが、それ以上に拓に自信のような物を与えてくれたのではないだろうか。
レベル11になり、両手剣のパッシブスキルがワンランク上がった事も、今後の旅を思うと心強い。
もっとも、拓一人で稼いだ有効打などほとんど無かった訳だが…。
そう、何日かしたら、また新しい旅が始まるはずだ。
ヴィヴィに戻る可能性もあるが、昨日の宴では、次の町に向かうような事を言っていた。
クーリオ達、ヴィヴィからの付き合いの仲間とも、シムルとも。
共に長い時間を過ごして、着実に絆も深まっちゃってるんじゃ無いだろうか。
そんな風なことを考えニヤニヤしているうちに、ようやく昼休みとなった。
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「タク、めっちゃ眠そうだな。」
購買で買ってきたパンを持って、ゲーム研究部の部室にやって来た拓。
部室には既に部員の柴田、立石、そして日暮崎という女子生徒が集まっていた。
柴田の前で、買ってきたパンの封を破る。
柴田の声を聞いて、部室の隅で女子同士固まっていた立石が、拓に向けて言う。
「健全な男子高校生って感じねー。
フーミンもたまにはそういう隙を見せてくんないと。」
「フーミン言うな!」
そのやり取りで日暮崎もクスクスと笑う。
「で?
イクイクはなんで寝不足なの?」
立石が構わず拓に直接聞く。
「「イクイク言うな!」」
今度は拓と柴田、ツッコミが被る。
とうとう堪えきれず、声を上げて笑う日暮崎。
「で?
イクイク、なんで?」
しつこく問い質してくる立石。
「だから……!
…ちょっと、このままイクイクが定まっちゃうの、本当に勘弁なんだけど…。」
「俺もフーミンが浸透するのは勘弁だよ。」
「じゃあ、イクイク(仮)の名前をきめまSHOW。
…ちなみにフーミンはもうとっくに決定してるよ?」
「はあ!?」
「うん、もうフーミンでLINEのやり取りしてるよ?」
日暮崎の追撃で撃沈する柴田。
ぼんやりした頭で、こういうのも悪くないと思う拓。
なんだか二重生活してるみたいだな、と心の中でごちてみる。
バケツの中身をひっくり返したような馬鹿騒ぎの後、結局拓は女性陣からも「タク」と呼ばれることで落ち着いた。
それはそれで、ちょっぴり寂しい気持ちを味わう拓であった。
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拓は今夜もいつものように、異世界にログインする。
だが、現れるのはクーリオ達が逗留するマレヴィテでは無く、ヴィヴィの町だ。
ニナの家の裏庭から広場へと向かう。
そこには、まるで拓がやってくるのを分かっていた、と言わんばかりに駄使徒が泉の石垣に腰掛けて待ち構えていた。
「ちーっす、タッくん。
お元気そうで何よりッす。」
コリントの実をかじりながら、ネーレが軽い挨拶をする。
「何となく、ここにいる気がしたんだよね。」
ネーレに近付き、拓も軽く挨拶する。
「おや、珍しい。タッくんからあたしを求めてくるなんて、なんか用事でもありました?」
ネーレがわざと胸の下で腕を組みながら、多分セクシーポーズのつもりなのだろう、冗談めかして問い掛けてくる。
「いや、そういう訳でも無いんだけど。
初めての旅が一息吐いたし、たまには自分から挨拶でもしとこうかと思って。」
「……ふーん。」
座った位置から、立ったままの拓を見上げ、なめ回すような視線を向けた後、ネーレはニコリと笑った。
「旅は子供を成長させるなんて言いますけど、あながちあながちですな~。」
「なんだよ、あながちあながちって。」
苦笑する拓に、
「いえいえ、魔道書がタッくんにとって良い物になったようで、主上様にも鼻が高いってもんす。」
楽しそうにネーレは言った。
「で、どうっすか?
異世界の旅は。」
「うん、見識が広がるって言葉を、肌で感じてるよ。」
「それは何よりッす。
タッくんはどこにだって行けるんすから、自分で限界を決めずに好きにするのが良いっすよ。」
「……ありがとう。」
「じゃ、さっさと行ってあの尻の青いブラウニーとイチャイチャするっす。」
「青くないやい!」
「蒙古…」
「ないやい!」
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ヴィヴィの町の広場からマレヴィテ近郊のエリアまで魔道書の力で移動する。
まずはシムルの召喚だ。
「タクさん、おはようございます!」
爽やかな笑顔で、シムルが抱き付かんばかりに近寄ってくる。
途端に崩れる拓の表情筋。
健全な男子高校生に理性など無意味と知るが良い。
「あのさ、シムル。」
「はい?」
あどけない瞳でこくりと首を傾げるシムル。
「あの、蒙古斑とか……あ、いや、何でも無い!
何聞いてんだ、俺……!」
首をぶんぶん振る拓を不思議そうに見るシムル。
異世界は平和だった。
「おいーっす、タクー。」
宿屋に向かうと、テラス席のようなテーブルでクーリオ達が優雅なお茶を楽しんでいた。
「シムルー、おはー。」
マキナとニナがシムルに手を振る。
拓はマニブスとクーリオの間の席に、シムルはマキナとニナの間へとそれぞれ腰を落ち着ける。
「昨日はお疲れさん。」
クーリオが労い、マニブスが拓に新しいお茶を入れてくれた。
「お陰でアンデッド騒ぎの報奨金を頂いたぜ。」
「シムルの働きが大きかったわねー。」
なるほど、それで余裕の態度だったわけだ。
潤沢なお茶と焼き菓子。
小麦粉やそば粉に、ドライフルーツや先ほどネーレが囓っていたコリントの実などが練り込まれている。
ネーレはこれを知っていたのだろうか…。
拓とシムルも早速ご相伴に与る。
「で、これからなんだけど。」
お茶を飲みながらのミーティングが始まる。
「図らずも今回の騒ぎで、顔はそこそこ売れたように思える。
今日は成仏したアンデッドの亡骸を集めて、合同供養するらしいからその手伝いだ。」
その言葉で、屍人と化した遭難者と邂逅した町人達の様子を思い出し、胸を痛める仲間一行。
「……その後は、何日か留まって行商の護衛辺りにありつきたいところだな。
ちょっと遠いが、王都行きも悪くないな。」
「それ、賛~成~」
マキナが嬉しそうに同意する。
シムルも王都にはやはり憧れるのだろうか、瞳をキラキラさせている。
それからは、拓の知らない王都の情報や、行商の目的地として可能性のある町や村の話を聞き、どこに行きたいだの何を食べたいだのといった脈絡も無い話に花が咲く。
――どこにだって行けるんすから―
ネーレの声が脳裏を過る。
うん。
まずはこの町をもっと満喫しよう。
浜辺でフリスビーとか、リア充っぽくて憧れる。
水着姿のシムルだって愛でたい。そう言えば、この世界の水着って、どんなんだろう。
たっぷり潮を含んだ風を受けて、拓は目を細めた。
魚料理は昨日の晩に食べ過ぎたんだけれども…まあいっか。
<完>
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます。
ちょっと打ち切り漫画の最終回みたいな雰囲気も出てしまいましたが、またいつか続編を再開するつもりでおります。
その時には、是非ともまたお付き合いして頂けると嬉しいです。
また、本作に登場する柴田文男君を主役としたスピンオフ作品、「放課後のFOOLS」も今後不定期で更新しようと思っております。
合わせてお楽しみ頂けますと幸いです。
それでは、またいつの日か。