4-3
ヴィヴィの町のいつもの泉のある広場で、クーリオ達を待つ拓。
町のポイントから拓がログインしたタイミングでちょうどニナが家から出てきたので、珍しくニナと二人で一緒にここまで来た。
ニナと二人きりは初のケースで、少し気まずい空気が流れている。
ニナも同じ気持ちなのか、それとも全く意に介していないのか、いつもと変わらない表情で淡々と町を見回している姿からは窺い知れない。
「タク、なんか疲れてる?」
そうかと思うとやはり周囲をよく見ているようで、拓の顔色の変化にも気付いた様だ。
現実世界とここでは体調に相関関係は無さそうなので、調子が悪そうに見えるのはやはり精神的な物なのだろう。
「そうでもないけど…勉強がちょっとね。」
漫画だったら死んだ魚の目で表現されるだろう表情で、拓が答える。
勉強の意味が分からず、ふうんと一言残してまた町を見回し始めるニナ。
ほどなく、残りのメンバーも集まりだした。
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ギルドはそこそこ賑わっていた。
オーガの一件でやはり多少の影響が他の魔物や獣にもあったようで、町の周辺で何件か目撃情報があるとの事。
ここ数日小規模な討伐クエストがいくつか発生しているそうだ。
「流石にそうそう都合の良い話はないな。」
掲示板を見終えてクーリオが言う。
遠征に適したクエストはないようで、手頃なゴブリン退治のクエストを引き受ける事にしたらしい。
受付カウンターに依頼票をひらひら振りながらクーリオが向かって行く。
「クーリオってば、懲りないねー。」
「アイデンティティ。」
「カタリナさんはかなり好みらしいからね。」
残りのメンバーが微妙な表情でクーリオを見送る。
最近拓も覚えてきたが、ギルドには所長を除き二人の女性職員がいる。
初日に拓の登録を受け持ってくれた眼鏡の少し気の弱そうな女性がメル。
もう一人が明るくテキパキと仕事をする女性で、カタリナという。
カタリナは快活という言葉がよく似合う、冒険者をまえにしても全く怯まない女性で、時々仕事をさぼるギルド所長すら叱っている姿を見かけるが、けっこうな美人だ。
クーリオとマキナの二つくらい年上になる人で、冒険者達からの人気もとても高い。
おそらく愛嬌ばかりでは冒険者相手は務まらないのだろう。
この美しくて気っぷも良いって辺りがクーリオの好みドストライクのようで、以前からちょくちょくとアプローチを仕掛けているようだが、結果は残念な物だ。
年上の頼れる美人お姉さん、そんな無敵の存在が男子高校生たる拓に響かないわけが無いが、幸いというか今はシムルの存在が心にあるおかげで、そんなクーリオに余裕を持った視線を送れる拓であった。
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「オーガを仕留めてもあらそう、で終わっちまうし、一体何が足りないっつうんだ…。」
昼飯用のパンと干し肉を背負っていたバッグから取り出しつつ、クーリオが黄昏れている。
実際にはカタリナの反応はオーガ退治を成した事にかなりの賞賛を示していたのだが、クーリオだけで無くパーティ全員に等しく与えられた物だった為、クーリオにとっては非常に物足りない物だったのだろう。
一行はゴブリンが頻繁に現れるようになったという町の西側外の農耕地に辿り着き、まずは少し早い昼食を取ろうという算段だ。
各々が敷物を広げたり自分の昼飯の準備をしている中、拓は皆から少し離れた場所に立っている。
いよいよ、初の召喚魔法実行を試みるのだ。
シムルとも昼の少し前くらいに行うことを事前に打ち合わせているため、いきなりで驚かす事はないはずだ。
拓はドキドキしながら小指にはめた小さな指輪に逆の手を添え、静かに自らの体内の魔力を高める。
初めは体内に浮かぶ小さな水の固まりのイメージ。
それが徐々に膨らみ、やがて体内に広がり満ちていく様を想像し、そのイメージ通りに体の中の熱が循環していくのを感じる。
そして―
「光の理と風の精の縁をもって我ここに召喚せり。」
もごもごと口の中で詠唱のような物を呟き、具体的な事象へと変換させるべくその名を喚ぶ―
「シムル。」
すると、拓の一歩分前の地面に淡く輝く六芒星が現れ、光の柱が立つ。
突如現れた光を注視する仲間達が見守る中、光の柱の中から人影がふわっと浮き上がり、トスッと柔らかく地面を踏む音を立て、シムルが現界した。
「…………」
誰も一言も話さない。
周りを取り囲む畑に育った麦が風に棚引く音だけが、しばし辺りを包む。
シムルもまた無言で拓を見、周囲を見回し、また拓を見て―
「ふあああ。本当に、タクさん…!
そそれに、こここどこおお?」
目を白黒させてシムルが我に返り、それを見て全員がまた我に返った。
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「しかし本当に召喚出来るとか。
タクお前、何者なんだよ。」
「本当ですねー。
あ、いえ、タクさんの事は信じてたんですけど。
まさか本当にこんな遠くまで一瞬で…。」
まずは体に異変が起きていないかシムルにチェックをして貰ってから、一同集まって昼食タイムだ。
クーリオとシムル、それにマニブスは先ほどの召喚術に興味津々、やや興奮気味だが、マキナとニナはシムルが持参してきた弁当に食いついていて無駄に大物感を醸し出している。
「ラプータだー! うわぁ、チーズもあるよー!」
「チーズ最高。ハムが欲しい。」
そんな二人はスルーして、拓も色々確認を済ませる事にした。
「術が発動した時は、どんな感じだった?
強制的に転移させられる感じなのかな?」
「いえ。
いつ魔法が起こるのか分からなくて、ソワソワしながら待ってたんですけど。」
拓は肩から小さめのバッグを提げたワンピース姿のシムルを改めて見て、その格好でソワソワしながら挙動不審に待機しているシムルを想像し、密かに悶えた。
「突然胸の前に光が輝き出したんです。
それで、頭の中でトゥルルン、トゥルルンて音が鳴り出して、あわあわしてたらだんだんトゥルルンが早くなり始めて…。
そしたら、何となくタクさんが喚んでいる、って想いが強くなって。
それに、心の中で応えようとしたら、突然目の前がここになっていました!」
あわあわのところでまたも拓の意識が遠い世界に行きかけたが、どうにか最後まで話を聞き遂げられたようだ。
「そのトルルンがよく分からないが」
クーリオが口を開く。
「いえ、トゥルルン、です。」
きっぱり言い直すシムル。
「…うん。あ、はい。
その、トゥルルンがよく分からないけど、それは頭の中でずっと音が鳴ってるって事なのか?」
「そうですね、ずーっと鳴ってて、慌てちゃいました。」
「トゥルルンか…」
「トゥルルン、ね。」
クーリオに続けて拓も口に出したが、拓のはトゥルルンって言って見たかっただけだろう。
マニブスも何か口にしたがっていたが、賢明にも口を開く事は無かった。
どうもシムルの話だと、まず胸元に魔方陣が浮かび上がり、続いて頭の中にコール音が響くようだ。
それが召喚の求めとなり、それに応える事で実際に術が発動するのだろう。
ファンタジーなのかSFなのか良く分からないが、とにかく問答無用で呼び出されるわけではないようで、拓も安心する。
年頃の女の子を一方的に勝手に呼び出したりしたら、ラッキースケベならぬセクハラ紛いの事態にもなりかねないと危惧していたからだ。
もっとも胸元で光る魔法陣とか頭の中で鳴り続けるコール音とか、対象者には充分迷惑な魔法ではあると思う。
とにかく最初の召喚が無事に成功し、経過の状況を知る事が出来た事で、やっと昼食に入る。
すでにシムルの持ってきたラプータは他の女子二人に平らげられた後ではあったが。
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次回は4/5(金)更新予定です。
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