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第四章、スタートです。
宜しくお願いします。
「ここで、いいで、すかっ」
「おぉタク殿、早いな。
右の固まりが同じ木だから、そこに積んでくれ。」
シムルの父、ドゥオムに指差された方角に、クーリオと抱えている丸太を運んで歩く拓。
ヴェネ・ブラウニーの村「ベントス村」は、現在絶賛復興中だ。
ギルドを介して復興の協力に来ていたパーティはクーリオ達を除いて昨日で町に帰還した。
ドゥオムは大工を生業としているらしく、復興作業の中心人物の一人だ。
拓から見ると30代前半くらいに見える彼だが、実際は80代らしいから、妖精族の見た目に地球の常識は通じない。
オーガ襲来時は投石や盾役で戦ったそうで、左肩に作ったその時の傷がまだ残っている。
傷用の薬やポーションで充分に治る傷なのだが、大事な愛娘の命が失われそうになった事を忘れずに心に刻みつけるんだと、治すのを拒んだのだ。
ブラウニー特有の茶色い瞳でじっと相手の目を見て話しかける様は、相対する誰もに思慮深そうな印象を与える。
傷をあえて残すその決意もなかなか男前だが、実際の本人の性格は穏やかで気の良い人物だ。
ちなみにシムルの母はルクスという薬師で、シムルが重傷を負ったあの場に一緒に居た人だ。
なかなかの美人で、シムルもいずれこんな感じになるのかと思うと勝手に心臓が暴れ出して、その度に拓の挙動が怪しくなる。
シムルの両親は拓を娘の命の恩人として、拓が引くくらい大げさにもてなしてくれた。
ほとんど魔道書による超常の力で成せた事なので、あまり熱心に感謝されると若干居心地の悪さを感じてしまう男子高校生。
拓としては、大切な娘を勝手に召喚術の契約対象にしてしまった事を非難されずに済んだ、というだけで充分有り難い話だ。
クーリオ達仲間連中も召喚魔法と聞いてひどく驚いていたが、これも古の魔道具による何ちゃらかんちゃらで、という胡散臭い言い訳で納得してくれたようだ。
これまでの経緯を思うと、確かに今さら、という気もしないでもない。
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頼まれていた作業が終わったので、クーリオは新たに建設される事になった外壁増設に協力しているマニブスの元に、拓は復興作業中の人々への食事を準備しているマキナニナコンビの元へそれぞれ合流する事にした。
村の中心にある集会所は、最初に建物の修繕が施され、復興作業の拠点となっている。
居住が厳しいような被害に遭った人達の仮の住まいでもある。
その集会所の前の広場に、細い木で作った柱に大きな布で天蓋を設けた簡易テントが建っている。
そのテントの中、シムルの母ルクス、マキナ、ニナが二つの寸胴を前に調理中だ。
その隣、集会所の裏に続く建物脇に設えられた土製の竈からは、肉を焼く煙が立ち上っている。
食欲を刺激しまくる匂いがそこいら中に立ち籠め、作業後の疲れた体の拓を面白いように弄ぶ。
「おー、タク来たねぇ。」
芋の皮むきをしているマキナが片隅から拓に声を掛けてきた。
マキナが作業初日早々に戦力外通告を受けて、以来皮むき専任のスペシャリストと化している事を拓はまだ知らない。
世の中には知らなくても良い事だってあるのだ。
「何か手伝える事あるかな?」
「んー、そうだね。
…ルクスさーん。
タクに何か仕事ありますー?」
ルクスの方を見ながら声を上げるマキナ。
その間もナイフを握った手は動き続けていたが、芋を持つ手では無くナイフを持った手の方を回しているため非常に危なっかしい。
「タクさん、ありがとう。
でももうすぐ出来上がるところだから大丈夫。
…そうねぇ、せっかくだから、テーブルを出すのを手伝って貰おうかしら。」
優しい笑顔で拓に話すルクスの横で、ニナが味見をしながら調味料を足している。
確かに最終段階に入っているようなので、拓は素直にテーブルを運び出すため、集会所の中に入る事にした。
集会所の中は大きな窓が設けられている為、昼間の今は室内とは思えないほど明るい。
入って直ぐの大広間では何人かのブラウニーが住人達の被害にあった家の敷物や衣服なんかの修繕を行っていた。
「タクさん…!」
その中から一人の少女がててて、と拓に寄ってきた。
言うまでも無くシムルだ。
拓を見上げて微笑むシムル。
ヴェネ・ブラウニーの多くは髪色と同じような茶色の瞳を持つが、シムルのそれはほんの僅か金が混ざり、それがあどけない美少女然とした風貌に少しだけミステリアスな雰囲気を与えている。
少し上気したように見える頬と、まるで何かを期待するかのような瞳の動きで、拓はご飯3杯いけるだろう。
「シムル、体調はどう?」
「おかげさまで、絶好調です。」
そう言ってまた嬉しそうに微笑むシムル。
数秒微笑みながら見つめ合う二人に、周囲のブラウニー達は生暖かい視線を送っていた。
奥の倉庫からシムルと二人、何度か長机を広場まで運び出しているうちに徐々に休憩に戻ってくる人々が集まりだした。
マニブスらも合流し、配膳を終えると集会所前の広場には120人ほどの人が揃っていた。この村の9割方がここに居る事になる。
残りは足りない資材の買い出しや森への採取に出ている。
やがて一同揃っての昼食が始まる。
今日のメニューは豆とトマトと芋を煮込んだスープと、ハーブをふんだんに使った羊肉の蒸し物。
それとブラウニーが好んでよく食べるラプータという料理だ。
これは小麦とトウモロコシの粉をこねた生地を薄く焼き、それに野菜や焼いた肉、チーズなどを好きに包んで食べる物で、拓の世界で言うラップサンドだ。
牧畜をしているベントス村ではチーズは常食となっているので、乳製品好きの拓にはここは素晴らしい土地だ。
拓の座るテーブルにはクーリオ達いつもの仲間と、シムルが集まって食事をしている。
もう何日かこの村で食事をしているのだが、全く飽きる気がしない料理を前に、拓もメンバーも口を休ませる暇無くがっついて食べる。
食べる、食べる。
「はぁ~、この料理もそろそろ喰い納めかぁ。」
クーリオがやっと満足したのか、食後のハーブ茶を飲みながらそんな事を言う。
「またいつでも来れるって。
いつでも歓迎してくれるって村長さんまで言ってくれたじゃん。」
マキナも幾分寂びしそうにしながらも、そんな風に慰める。
「あの、やっぱり皆さんももう町に戻ってしまうんですか?」
シムルがチラッと拓の顔を伺いながら尋ねる。
「後は住人だけで何とかなるって、さっき言われたしなぁ。」
クーリオがシムルに向き直って言った。
「世話になった。」
マニブスが真面目な顔をしてシムルに言う。
「いえ、私たちこそとってもお世話になりました!」
「それで、タク。
俺達、一度町に戻ったら、少し遠征しようと思ってるんだ。」
クーリオが今度は拓に言った。
そろそろ引き上げるというのは拓も知っていたが、遠征の話は初めて聞く。
「遠征、ですか。」
「あぁ、そろそろヴィヴィの町に出る採取系のクエストも少なくなってくる時期だしな。
経験を積むのにもちょうど良い時機だし。
手頃な護衛系のクエストを待って、少し旅をしようと話してたんだ。」
「旅、楽しみ。」
短くニナが呟き、マキナがうんうんと頷く。
そんな仲間達の言葉を聞きながら、シムルは不安そうに拓の顔を見上げるのだった。
次回更新は3/25(月)予定です。
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