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異世界通いと契約ヒロイン  作者: 秋月創苑
第三章 異世界通いの冒険譚
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3-4

ブクマ、評価、感想と誠にありがとうございます。

とても励みになります。

まだまだ拙い物語ですが、どうぞお付き合いください。



 駆けつけた拓が目にしたのは、横座りして足首を押さえているローブ姿の青ざめた女性。

 そしてその女性が呆然と見つめている視線の先には―


 拓が最も恐れていた光景があった。

 飛んできた分厚い板が破壊した煉瓦の壁の瓦礫に埋もれ、血だまりが広がっている。

 瓦礫から顔を覗かせているのは、生気を失いまるで別人のように見えながらなお、見間違えるわけも無い。

 シムルの顔だった。


 急いで瓦礫の山を退ける拓。

 必死に腕を振っていると、いつの間に来ていたのか、クーリオやマニブスも手伝ってくれていた。

 マキナやニナは周囲のけが人の手当をしているようだ。


 幸いにも瓦礫のほとんどは土を固めたような材質の物だったため、さほど排除に時間は掛からない。

 やがてシムルの体からすっかり瓦礫が退かされたが、その姿はあまりにも痛ましい。

 まだ辛うじて息はあるが、意識は無い。

 自身の血で染まってしまった全身が、夥しい失血を物語っている。


 拓は持っていた全てのポーションを取り出し、次々にシムルへと振りかけていく。

 だが一向に回復する兆候は無い。


「タク、下級のポーションではダメだ。」


 辛そうにクーリオが諭すが、黙って諦められるわけなど無い。


 徐々に集まってきた他のブラウニー達も、シムルの姿を見るなり悲痛そうに目を背けるばかりだ。

 つまり、この場にシムルの手当が出来る者がいないということなのだろう。


 何か、何かあるはずだ。

 

 あの屈託の無い笑顔を、こんなところで失って良いはずが無い。

 ころころと耳に響く、愛らしい声色を失って良いはずなど無い。


 考えろ。考えろ。

 

 異世界から来ている自分なら、何か裏技があるんじゃ無いのか。

 

 魔道書―具体的には?

 モノクル。

 スキル。

 アイテム―ダメだ、他に何か。

 

 他に、何か、何か無いのか―

 ぐるぐると思考を振り回しているその時、拓の脳裏に何か引っ掛かった。


 この村に辿り着く前、ちらりとマップを見た時の事―

 この村の裏手に、湖に連なる川が流れていたはずだ。


 シムルはあの日言った。

 この湖は清浄だと。


「いるんだろ、ネーレ!」

 祈る気持ちで拓が叫ぶと、間延びしたその声が背後から届いた。


「はいはーい。

 呼ばれて飛び出てネーレちゃん、爆誕っす!」


「そういうのは後で!

 何か、手は無いか!?」


 素直にネーレは拓の隣に並び、シムルをじっと見下ろす。

 クーリオ達、周りの人々は何が起きているのかさっぱり分からず困惑している。

 ネーレの姿は誰にも見えていないと思われるので、拓の気が触れてしまったと思っているのかもしれない。


「かなり危ない状況っすね。

 …でも、一つだけあるっすよ。

 この娘を救える方法が。」


 藁にも縋る思いで続く言葉を待つ拓。

 だがネーレはそれに応えずシムルの側にしゃがみ込む。


「その前に、この体では持たないっす。

 少しだけ、あたしの魔力を分けるですよ。

 今回だけ、特別っすよ?

 他ならぬタッくんの為っすからね。」


 やがて、シムルの胸に翳されたネーレの手のひらから淡く、優しい色の光が溢れでた。

 ほんの僅かの時間だったが、少しだけシムルの顔色が良くなった気がした。


 それからネーレは拓を見上げ、手を振り自分の隣に屈めとジェスチャーしてくる。


「タッくん、覚えてるっすか?

 前に召喚魔法の話をしたっすね。」


 拓は無言で頷く。


「では、シムルちゃんと魔道書(マジカ・ムタレ)の力を使って刻印契約を結ぶっす。

 召喚魔法の特性で、召喚した対象者を送還した際、体力や傷の完全回復が付与されるっすよ。

 完全に裏技的な方法っすけど、それ以外に道は無いっす。」


「どうすれば良い?」


魔道書(マジカ・ムタレ)に手を当て、魔力を流しながらあたしの言うとおりに詠唱するっすよ。」


 言われた通りに拓は左の小指にはまった指輪に右手を添える。

 魔力の込め方なんて良く分からないが、斬撃や縮地のスキルを使う時の感覚をイメージしてみる。


 すると、指輪に嵌まった青い石がほんのり光を帯びた。


「ではいくっすよ。

『我、ここに血の盟約を求めん。』」


「我、ここに血の盟約を求めん。」


「マジカ・ムタレの神秘を糧に―」


「マジカ・ムタレの神秘を糧に―」


「以下略―」


「以下……りゃ…く…?」

 突然の場に不釣り合いな言葉の登場に、詠唱を紡ぎながら拓が訝しみながら隣のネーレを伺うと…。


 突如シムルの胸元に輝きが浮かび上がり、虹色の六芒星が天高く伸びた。

 その光景に驚き、目を見張る拓と周囲の人々。


「後はこの娘が受け入れるかどうかっすね… って、言い終わる前に受け入れてやがるじゃねえすか!

 何すかこの娘、チョロインすか?

 チョロインなんすか?」


 シムルの胸元に輝いた光はゆっくり収束し、シムルの身体に染み込むように消えていった。


 しばし無言で経過を見守る拓とネーレ。


「とりま、これで第一段階終了っすね。

 では次に、送還するっす。」


「それも詠唱がいるの?」


「もちのろんす。

 ま、この場がホームグラウンドすから、あくまで形だけっすけど。」


「分かった。詠唱を頼むよ。」


「うい。

 噛まないでくださいっすよ?

 

 ……『送還』」


「送還。」


 …………


「…って! それだけ?!」


 再びシムルの胸元に六芒星が輝いたと思うと、みるみるシムルの血色が良くなっていく。


 呆然と見守る人々の視線の中、ゆっくりとシムルが目を開けた。


「タク、さん…」


「…シムル?」


「…タクさん…。

 …タクさんっ。」


 ガバッ、と上半身を起こし、拓の服の袖をぎゅっと掴むシムル。

 

「ありがとうございます。」

 力の入らない腕で拓の袖を掴み。

 力の入らない震える声で。

「タクさんが、助けて、くれたん、ですね。

 タクさんが、呼びに来てくれて、私、戻って、来られました。」


 まだ少し青白い顔をしているようだが、それでもシムルははっきりと拓に微笑んでくれた。


 拓もまた震えるように、深く息を一つ吐いてから、ぎこちなくシムルに微笑むのだった。



ようやくタイトル通りの作品となりました。

次回で三章は完結します。

気に入って頂けましたら、ブクマ、感想など頂けると幸いです。


次回は3/17(日)を予定しております。

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