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残ったオーガの元に進みながらも、村の状況を確認する。
地面は所々抉れ、いくつかの家屋に大きな被害があるようだ。
拓は見た事が無いが、竜巻が通った後というのはこんな感じなのだろうか。
どこかで見た事のある風景のような気がするのだが、ニュースか何かだろうか。
これが既視感というやつか、などと、因縁の相手を屠った余裕が少し拓にも出てきたらしい。
先のオーガと同じようにただ大木を引き抜いて振り回したのであろう、別のオーガが作った倒木を避けて進む。
ニナの報告通り、二体のオーガの亡骸も横たわっていた。
やがて交戦中のオーガとブラウニー達が見えてきたが、その辺りからどういうわけか数体、ゴブリンの死体も散見された。
やがて建物の角を曲がったところで、戦場に辿り着く。
オーガは既に手負いのようで、追い込もうとブラウニー達の攻勢も激しい。
その周辺で、数体のゴブリンと戦うブラウニーの姿もあった。
どうやら、オーガがこじ開けた村の守りを抜け、漁夫の利狙いで紛れ込んできたようだ。
「ゴブリンは見付けにくいから気をつけろよ!」
クーリオが駆けながら叫ぶ。
早速民家の陰から一体のゴブリンが、先頭を走る拓目掛けて矢を放った。
クーリオの模擬戦用の矢を何度も受けている拓に、ゴブリンクラスのひょろい矢が当たるはずも無く、簡単に剣で捌く。
飛び出してきた一体のゴブリンをマニブスが盾で受け止め、もう一体向かってきているゴブリンを拓が受け持つ。
覚え立ての「縮地」スキルを意識して発動すると、瞬間移動したかのように一瞬でゴブリンの目前に迫る。
剣道で覚えたすり足の延長線上にある技だろうか。
突然の事に軽くパニックになるゴブリンを冷静に見据え、
―小手
ゴブリンの剣を叩き落とし、
―胴
軽く戻しただけの剣を手首の回転だけで捻り、ゴブリンの脇を駆け抜けながらぷっくりとした腹部を一閃する。
短い叫びを上げるゴブリンを尻目に、素早く周囲を確認する。こちらに向かってくる敵は他に居ないようだ。
改めてオーガを見遣る。
あちらこちらから流血しているが、まだ体力は充分に残っていそうだ。
小さくない傷をいくつか作っているが、体の低い位置に集中してしまうのだろう、致命傷を与えるのはなかなか難しいようだ。
「頭か眼を狙いたいな。」
オーガを見上げながらクーリオが呟く。
「もうあんまり魔力残ってないんよねー。」
軽く息を整えながら、マキナがうんざりしたように言う。
ブラウニー達もそろそろ魔力が切れ始めているようで、飛び交う遠隔の攻撃は専ら弓矢やナイフのような投擲武器ばかりだ。
ニナとマニブスが前衛のブラウニー達に合流しに向かっていくのを追おうとした拓に、クーリオが言葉を掛けた。
「さっきの要領で足を止められるか?
さらに屈ませられたら最高なんだが。
とにかく動きを止め、注意を逸らしてくれれば良い。」
分かった、と軽く手を上げ拓もオーガに向かって行った。
「短い間に逞しくなっちゃって。」
「さっすがタクね。
お姉ちゃんも鼻が高いわ。」
近所の子供を見送る中年夫婦の佇まいで呟く後衛二人であった。
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手負いのオーガは興奮状態に入ったらしく、しきりに咆哮を上げながら辺りの木や家屋を腕を振るってなぎ倒そうとし、その度に辺りに木の枝や瓦礫などが特撮もかくやといった勢いで飛んでくる。
体を動かし続けるので、迂闊に足下にも近付けず、取り囲んでいる者達も攻めあぐねているようだ。
(クーリオじゃ無いけど、何とかしてあいつの動きを止めないと…)
逡巡している拓に好機が訪れたのはその直後。
暴れ回るオーガの体が激しくぶつかり、その肩に並ぶ高さの大きな木がさらに大きく幹を揺すった刹那、茂った葉の中から紫色をした何かが飛び出し、オーガの巨大な一つ目に真っ直ぐとぶつかり、弾けた。
直後、その木から飛び降りたのはニナだった。どうやらニナの仕込みが功を奏したみたいだ。
紫色の物はニナ特製、粘膜に触れると強烈な刺激を与える毒物。
もちろん眼球への効き目はさもありなん。眼を潰されたオーガが叫びを上げ、よろめいた。
その好機を逃す訳もない。
転倒すまいとたたらを踏んだ足目掛け、縮地を併用しながら一気に拓が駆け寄る。
攻撃すべき場所はスキルが導いてくれる。
感覚が教えてくれるその流れに沿って、拓はただ身を任せるだけだ。
―グガアアア
思い切り叩きつけた剣の衝撃は、拓にも跳ね返ってくる程だ。
嫌がるオーガを見て周囲の戦士達も畳みかける。
ある者は剣を振るい、ある者は槍を突き立て、矢が飛び魔法が飛ぶ。
オーガも目を瞑りながら最後の抵抗をする。
しばしの攻防の末、大槌を持った二人のブラウニーの渾身の一撃がくるぶしを痛打し、たまらずオーガが地面に倒れ込んだ。
倒れたオーガに殺到し、止めを刺そうとする者達に混じらず、拓はオーガが転倒時に巻き込んだ、倒壊した民家の方をじっと見ていた。
倒れる瞬間に手をつこうとしたオーガに潰された家屋。吹っ飛んだ屋根の一部が、近くに居た数人のブラウニーの元に落ちるのを目撃してしまったからだ。
そこで、拓は我に返る。
―ボーッとしてる場合じゃ無い!
拓は全力で駆け出す。
だって、その瞬間眼に入っていたのは。
拓のよく知る人物だったはずだ。
―シムル!!
その場に辿り着くまでの刹那の時間、どうか見間違いであって欲しいと拓は何度も思った。
ここまで読んでくださいまして、ありがとうございます。
次回は3/15(金)の予定です。
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