2-10.
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ブクマ、評価も日々感謝です。
いよいよ第二章最終話です。
この賞のエピローグ的な内容なので、やや短めです。
2-10.
ギルドにはまだ緊迫感が漂っているものの、平常運転をしているようだ。
クーリオは奥までまっすぐ入っていき、カウンターの片隅に座っている中年男性の前で立ち止まった。
「ギルド長、その後どうなりました?」
ギルド長と呼ばれた男は40過ぎの男で、やる気の無さそうな表情と裏腹に、眼光には鋭さを滲ませている。
元冒険者で、酒好き女好きで知られているが、いざという時は決断力があり、それなりに人望もある人物だ。
ちなみに、拓の中ではいつも暇そうに爪を磨いている人だ。
「オーガは見つからなかったよ。
森の奥に去った後らしい。
本格的に討伐するにも森の中じゃな。
人数を掛ければいいもんでもないし、しばらくは町に降りてこないよう、警戒を強めるくらいしかできないな。」
オーガクラスなら、経験のあるパーティが何組か当たればさほど難しい相手では無いが、森の中では動きが制限され、数の優位も効果が期待できないという。
「しばらく警戒の斥候が巡回するから、お前らもあまり森には近付かんでくれ。」
その言葉を聞いて、一行はギルドを後にした。
その後広場に戻り話し合った上で、今日は装備のメンテナンスと休養に充てることが決まった。
マニブスとニナの装備にガタが来ているし、拓の剣も刃こぼれが目立ち始めた。
武器屋に向かう前に、町中の転移ポイントを紹介して貰う。
広場の比較的近くにニナの家があり、普段あまり使っていない納屋もあるとの事だったので、早速その裏でセーブを行う。
ここなら広場にも近いから、ネーレにもたまには会えるかもしれない。
「マニブスの家も近いっちゃ近いけどなぁ。」
「まーねぇー。」
クーリオとマキナが何だか微妙な表情なので問いただしてみると…
「こいつ妻帯者だからさー。」
「さすがに新婚さんの家とかちょっとねー。」
…
「ええええええっ!?」
この世界に来て一番の驚きだった。
実際この世界では、16、7で結婚する者も多いのだが、そこはかとなく親近感を抱いていたマニブスがよりによって…
思わずマニブスを眺めて「裏切り者」と呟いてしまった拓だったが、当のマニブスは意味が分からず首を捻るだけである。
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今までのショートソードを下取りに出し、新しく拓が選んだのは、ロングソード。
いくつか試しに振ってみた中で、剣幅の細めな物を選んだ。
何となく、その方が馴染んだからだ。
武具の修繕を依頼したマニブス、ニナと共に店を出ると、道具類の買い出しを終えたクーリオ、マキナが待っていた。
休養という話になっていたが冒険者の性なのか、英気を養おうと口々に言い出す。
結局拓も巻き添えで酒場へと足を運んだ。
相変わらす酒場は昼間なのにやたら活気がある。
高校生の拓はもちろん、飲み会など経験が無い。
この町に来てから酒場に入った事はあったが、いざ宴会、という雰囲気は何だか社会人になった気分を味わえ、心が躍る。
この世界に年齢による飲酒制限は無いそうだが、拓は果実水を注文した。
父親の晩酌で一口飲ませて貰った事はあるが、何となくアルコールは止めておく。
どこからか「お酒は20歳になってから。っす。ダメ、ゼッタイ」と声が聞こえた気がするから…。
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クーリオはエール、他の三人はワインを飲んでいる。
料理も肉料理を中心に、野菜もパンもシチューもとテーブルの上を埋め尽くし、贅沢三昧だ。
拓の歓迎会も兼ねてとのことだが、大騒ぎのダシに使われた気がしなくも無い。
実は拓にとってもこの世界で初めてのまともな料理だ。
獣や魔物の肉もあったが、少し固いくらいで意外と味は良い。
クーリオ達の今までの冒険譚を聞きながら食べて飲み、楽しい時間を過ごしていると、騒がしい友達付き合いというのも悪くないと思える。
決して人付き合いが嫌いな拓では無いが、人の悪意を受け流す事が上手く出来ず、結果付き合う相手をついつい選んでしまう。
冒険者あるあるをふんだんに交えたこれまでのあれこれを聞く度、場に笑いが巻き起こる。
さらにクーリオの女性遍歴やら(思ったほど派手じゃなかった)、ニナの親父さんがどれだけ怖いかやら、マニブスの奥さんがいかにクーリオの弱みを握っているかやら、笑いの絶えない話が続き、やがて夜になる。
異世界で向かえる初めての夜。
拓にとって初めてづくしの日だ。
「しかし、消える直前のタクの剣裁き、あれはなかなかの物だったように思えるんだが、誰かに武術を習ってたのか?」
酒臭い息を吐きながら、クーリオが拓の肩を抱いて聞いてくる。
そのスキルなら泡と消えました、と心で呟きながら、拓も適当に答える。
その会話を聞いていた、すっかり酔っ払いと化したマキナが再び拓の生還を喜び号泣したところで楽しい宴もお開きとなった。
マキナを笑っていたクーリオの目にも涙が浮かんでいたのを拓は見てない振りをしたけれど、暖かい感情が体をぐるぐる周り、どうにも落ち着かない。
今でもあの瞬間を、世界から消える瞬間を思い出しそうになって体が強ばるが、それでもやっぱり、ここに来て良かった。
心からそう思えた夜だった。
次回、第三章の開幕は3/8(金)を予定しています。
第三章までが最初に考えていたプロットの範囲ですので、ようやくタイトル通りの作品に出来るかと思っております。
気に入って頂けたら、是非ともブクマをよろしくお願いします。




