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その町はヴィヴィの町と呼ばれている。
人口は4000人を少し超える。そのうち冒険者と呼ばれる職業を生業にしている人が約90人。
北、西、南にそれぞれ門が設けられていて、森や畑に向かう人や商人なんかが出入りしている。
拓が歩いてきた道から一番近いのは南の門だ。
門には軍服のような服装の門衛が立っていたが、拓を一瞥したきりで、特に身分証の提示を求められたりはしなかった。
門を通過するまでは下手にキョドらないよう注意していたが、町の中に入ると流石に我慢できず、周囲を見回した。
拓が想像していた中世ヨーロッパの様な町並みとは少し違っていたが、ファンタジー感のある町並みなのは間違いない。
建物は基本木造で、要所要所に石を効果的に配し、補強しているようだ。
中心部の大通りは左右に建物が建ち並び、人通りも多い。
道路は舗装こそされていないが、しっかりと土が均されていて歩き易い。
荷車が行き交うせいか、道幅は大概広い。
大通りから一本外れた通りには露天が並ぶ。
地面に敷物を敷くフリマスタイルではなく、小さな土製のカマクラのような小屋を構えている。
土魔法の恩恵なのだろうかと、わくわくしながら眺める。
色取り取りの野菜や果物、ちょっとした民芸品から日用雑貨まで。
見慣れた物も、初めて見る物も。
歩いているだけで心が躍る。
中心部の周りは一般市民の住居が並び、北側は領主の住む屋敷や、貴族の家があるようだ。
中心街をぶらぶら歩きながら、定番の宿屋や道具屋、武器屋なんかを眺めていると、期待していた物を見付けた。
「冒険者ギルド」
看板に書かれている文字がちゃんと読める事に安心して、改めてその建物を眺める。
他の建物と同様に、敷石の上に太い柱をいくつも並べ、漆喰のような壁で覆われている。
全体的にグレーの色味をしている。
二階建てのようだが、中に入るとギルドとして使われているのは一階部分だけらしい。
学校の教室くらいのスペースに、長机で仕切られた受付があり、何人かの人物が受付で話したり、スペースのテーブル席でボーッとしている。
受付にいるのは三名で、一番奥で暇そうに爪を磨いているのが中年男性、後の二人はお姉さん、と呼びたくなる妙齢の女性達だ。
そして、やはりというべきか、壁の一面が掲示板になっているらしく、何枚もの紙片が張られている。
一人の男性が熱心に紙を見ている。
まずはテンプレ通り、冒険者登録からだ。
女性二人のうち、空いている眼鏡を掛けたお姉さんの前に進み出た。
近付いていくと、顔を上げたお姉さんが気弱そうな微笑みを浮かべた。
「こんにちは。」
先に声を掛けたのはお姉さんの方だった。
「こんにちは。
あの、冒険者になりたいんですが。」
おずおずと切り出すと、慣れた様子でお姉さんが一枚の紙を差し出してきた。
「はい、登録ですね。
こちらの紙に必要事項を記入してください。
代筆もありますが、文字は記入できますか?」
話すのも読むのも問題無いが、書くのはどうなんだろう。普通に考えれば日本語が通じるとは思えないが、駄目だったら遠い異国の言葉だと言い訳しよう。
そう思い、拓は紙に記入する事にした。
名前の欄にはただ「タク」と、年齢は「16」、タイプには「剣士」とした。
おそるおそる書き終わった紙を差し出すと、
「タクさん、ですね。少々お待ちください。」
そう言ってお姉さんは裏に向かっていった。
(ええー! 通じるのかよ!)
特筆する身体能力も異能の力も持たないけれど、この魔道書ってば、結構なチートアイテムなんじゃ。そんな風に拓は認識を改めた。
しばらくして、お姉さんが小さな木片を持って戻ってきた。
差し出された手のひらに収まるほどの長方形の木片には、名前などの記載と銅貨に似た金属が右隅に打ち込まれていた。
「こちらがタクさんのギルド証になります。
銅プレートですね。
身分証にもなりますから、大切に扱ってください。」
銅ランクということだろうか。
初めて手にしたギルド証に感激する拓を尻目に、お姉さんは説明を続ける。
「ギルドでの実績がある程度積まれると、銀、やがて金に階級が上がります。
階級によって受けられる依頼が異なりますので、なるべく階級が上げられるよう頑張ってください。
ギルドでの実績は依頼の成果になりますが、魔道具によって記録されますので、他の町でも実績は積み重なります。
他の町でも使える証ですので、くれぐれも失くさないでくださいね。」
この辺りはよくある異世界テンプレに則っているようで一安心する。。
そんな風に思いながら、初めてのギルドを満喫する拓だった。
一通りの説明を聞き、お姉さんにお礼を言ってギルドを出た。
出るときに入れ替わるように男女4人のグループがギルドに入っていった。
拓より少し年上に見える若いグループで、みんなそれぞれに装備を揃えていた。
翻って自分の成りを改めて見ると、布の服に皮靴。防具と呼べるのは小手くらいしかない。
踵を返しお姉さんの元に戻った拓は、素材の買い取りをしてくれる場所を聞くのだった。
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露天で買った麻地のズタ袋を持ち、人目の無い路地裏でアイテムボックスから貯め込んだ魔物の素材を取り出す。
買った袋に詰め込んで、教えられた店まで向かう。
翻訳機能によると「素材屋」となるらしい小さな店構えの建屋に着く。
表の看板には「ロージの店」と書かれていた。
入り口にはカウンターがあり、でっぷりした中年の店主が立っていた。
拓は素材の詰まった袋を店主に差し出し、査定を依頼する。
「解体の処理はまずまずと言ったところだが…妙に新鮮な肉だなぁ。」
首をひねりながらも、店主は品定めをする。
毛皮や爪、牙、肉など魔狼と魔猪の分も含めて、締めて金貨3枚と銀貨1枚。
3.1Gの売り上げとなった。
魔猪の素材が破格だったのは言うまでも無い。
売却金を受け取り、そのまま拓は武器屋に向かった。
防具も一緒に売っているらしい。
取り急ぎ、貧弱な防御を何とかしたかった拓は、革と鉄で作られた胸当てと、頭部を守るためのヘッドギアのような形状の革製品を買った。
余った金で、道具屋で傷ポーションを補充するのも忘れない。
いよいよ冒険者デビューが見えてきた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
次回更新は2/26(火)を予定してます。




