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8 学園2年生~14歳~

 



 マーガレット様は笑い続けている。

「殿下ったら、どれだけ重症でいらっしゃるのかしら? これはもう”恋”を通り越して”病”のレベルですわ。重症の”フローラ病”ですわよ。つける薬はございませんわね。おほほほほ」

 マーガレット様。フローラ病って何ですか? 恥ずかしいから、やめてくださいませ。

「それではお邪魔虫はこの辺で失礼致しますわね。ごきげんよう」

 そう言って、マーガレット様は去って行ってしまった。



 西庭に二人きりで残されたバルド様と私。


「フローラ。キスしていいか?」

「ダメでございます」

「ちぇっ」

 鋭い目付きで私を見つめながら、

「どうしてもダメ?」

 と、聞くバルド様。

「15歳になるまではダメでございます」

「15歳だな? 15歳になったらいいんだな? 絶対だぞ!」

 あら、本当に15歳まで律儀に待つおつもりですの? うふふ、可愛いバルド様。


「バルド様、もう帰りましょう。遅くなってしまいましたわ」

「ああ、そうだな」

 じっと私の顔を見るバルド様。

「お前……やっぱり可愛いな」

「はいはい」

 私たちは、どちらからともなく手を繋いで歩き始めた。





 **********************





 バルド様と私は14歳になった。学園の2年生である。


 いつの間にか、私はバルド様を見上げるようになっていた。お声も少し低くなったバルド様。

「フローラ。お前、縮んだ?」

 はーっ?

「バルド様の身長が伸びていらっしゃるのですわ」

「やっぱりそうか?」

 嬉しそうなバルド様。

「これからもっと伸びるよな?」

「まだ14歳ですもの。きっともっと伸びていかれますわ」


「フローラはやっぱり背の高い男が好き?」

「私は、身長が3メートル以上あって筋肉ムッキムキで体重が1トンくらいある逞しい男性が好みでございます」

「それ、人間じゃないじゃん! 魔王かよ!」

「おほほほほ」

「フローラ。本当はどんな男が好みだ?」

「内緒でございます」

「フローラ! 教えろ!」

「内緒でございますー!」

 私はバルド様から逃げようとする。

「ちょ待てよ! フローラ!」

「待ちませんわよ~。おほほほほ」

 追いついたバルド様が、後ろから私を抱きしめる。

「俺じゃダメか?」


「殿下! クラインさん! そこまでです!」

 背後から担任の男性教師の声がした。

「ここは教室ですよ。いい加減になさい」

「はーい」「はい」

「ほらほら、他の皆も席に着く! ホームルームを始めます」

 周りで見ていたクラスメイト達も、それぞれの席に戻った。

 クラスメイトも担任教師も、もはやバルド様と私の”二人の世界”に慣れ切っている。

 貴族学園では6年間クラス替えが行われない。クラスメイトも担任教師も6年間持ち上がりなのだ。なので、昨年の入学以来、日々繰り返されるバルド様と私の”二人の世界”を見ても、もうこのクラスの誰も驚かない。あー、殿下たち、またやってるなーという感じなのだ。クラスの日常風景に過ぎないのである。


 このクラスは王太子であるバルド様が在籍している為、上位貴族の令息令嬢ばかりが集められている。

 貴族の子供は皆、学園で得た情報を親に伝える役割を担っている。大人の社交界で飛び交う情報とはまた違う、けれどある意味、より真実が見えてくるのが学園での生情報であったりするのだ。

 バルド様が私にベタ惚れしていて私たちがとても仲睦まじいという情報は、同じクラスの生徒達から親に報告され、確実に上位貴族達の間に広まってきていた。


 今までマーガレット様のお父上である宰相ダンドリュー公爵に付いてマーガレット様を王太子妃に推していた他の重臣達が、一人また一人と公爵サイドから離脱し始めたらしい。

 最近では、わざわざうちのお父様に近寄ってきて、

「私はフローラ嬢こそ王太子妃に相応しいと思っておりますぞ」

 と、自分は”フローラ派”だとアピールしてくる方までいるとのことだ。私が王太子妃、そしてゆくゆくは王妃になった時に甘い汁を吸いたいのでしょうね。


 お父様がおっしゃる。

「バルド殿下がお前を盲愛なさっていると、ずいぶん噂になっているようだ」

 盲愛? またすごい単語が出てきましたわね。

「バルド様は学園でもかまわず、皆の前で『フローラ、可愛い』『好きだ』って毎日おっしゃってますからねー」

「殿下はブレないな」

「ブレませんわねー」

「お前のどこがそんなにいいんだろうな?」

「失礼ですわね、お父様。私が王太子妃になったら、不敬の咎で引退を勧告致しますわよ」

「お前……可愛くないな」

「それはどうも。でもバルド様にとっては『世界一可愛い』のだそうですわ」

「解せぬ」

「無礼者!」

「親に向かって何だ!?」

「”王太子妃ごっこ”でございます」

「……やっぱり殿下の好みが理解できん」

 お父様は頭を抱えた。失礼しちゃう!




  そんなある日、夜遅く帰宅したお父様が、お母様と私と弟のフランツを居間に呼び集め、重々しく口を開いた。

「ダンドリュー公爵が不正を告発されて宰相職を更迭された。告発したのはダンドリュー公爵家の長男マース殿だ」

 えーっ!? マーガレット様のお兄様がお父上を告発!?

 お母様が心配そうに問う。

「公爵家はどうなるのでございます? 奥様やお子様にまで罪は及びませんわよね?」

「不正の証拠を揃えて告発したのが長男マース殿だからな。ダンドリュー公爵家そのものは取り潰されたりはしない。公爵位はマース殿が継ぐようにと王命が出た。現公爵は爵位をマース殿に渡して引退し、領地に引っ込むことになる」


「現公爵様は領地で暮らせるのですね? 投獄などはされないのですね?」

 私はお父様に確認した。

「ああ、そうだ。大きな不正に発展する前にマース殿が告発をしたのだ。ある意味、親孝行だったと思うぞ。これ以上大きな不正になっていれば、投獄は免れなかっただろう」

 なるほど。きっとタイミングをよくよく考えた上での告発なのだろう。

 それにしても、以前マーガレット様がおっしゃっていた通りのシナリオだ。マーガレット様は「お父様を領地送りにして引退させて、爵位をお兄様に譲らせる」と確かにおっしゃっていた。でもまさか現実のことになるなんて……


 お父様が話を続ける。

「それでだ。こういうことになって、ダンドリュー公爵家令嬢はバルド殿下の婚約者候補から外れることが確実になった。フローラ、お前は殿下の正式な婚約者になる。そのつもりで覚悟を決めておきなさい」

「はい」

 急な展開になかなか頭が追い付かない。でもこれはマーガレット様とお兄様の計画通りなのだ。マーガレット様から話を聞いていて良かった。もしも何も知らずにこんな事態を迎えていたら、きっともっと驚いて戸惑っただろう。


「フローラが王太子妃か……」

 お父様が呟く。

「フローラに王太子妃が務まるかしら?」

 お母様は不安そうだ。

「姉さんが王太子妃だなんて冗談だろ!」

 フランツめー!

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