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7 予知夢



「夢では私が12歳、殿下が10歳の時に婚約したのに、実際には夢に一度も出てきたことのないフローラが10歳の殿下の心を鷲掴みにして以来、殿下はずっと貴女のことが大好き。そして私と殿下の婚約は未だに結ばれない。フローラは私を”国外追放”の未来から救ってくれる救世主なの。希望なのよ」


 正直、何だかよく分からない話だけれど、マーガレット様は真剣に話されている。たかが夢の話でしょ? では済まされない緊迫感を感じる。

「これから先、どうなるのでしょう? そのリリヤとかいう転入生はいつ現れるのですか?」

「リリヤが転入してくるのは3年後。私が6年生、殿下が4年生になった時よ。リリヤは平民として育ったのだけれど、男爵家に引き取られてこの学園に転入してくるの。殿下と同じ学年にね」

 本当に具体的な夢ですのね……

 つまり3年後、私とバルド様が16歳になる年にリリヤが同じ学年に転入してきて、バルド様はリリヤに夢中になって……んん?


「あの、マーガレット様。やはりバルド様はリリヤのことを好きになってしまうのでしょうか?」

 それはイヤだわ。

「私はね、リリヤが転入してくる前にフローラが正式な婚約者になって、私が完全に殿下と無関係になってしまえば大丈夫だと思うの。私が今のまま”婚約者候補”なんていう中途半端な立場にいると、ゲームの強制力が働いて殿下がリリヤに夢中になってしまって、私がリリヤを苛めるかもしれない」

「『ゲームの強制力』って何ですの?」

「えっ?」

 マーガレット様は、”しまった!”という表情になった。

「えーと、その、何と言うか”人が抗えない力”みたいな」

 うーん、わからない。

「とにかく。私の未来はフローラに懸かってるの。何としてもフローラに殿下の婚約者になってほしいのよ! もちろん私も出来る限り協力するわ。これ以上うちのお父様が邪魔をするようなら、私がお父様を潰す」

 公爵様を潰す? サラッと恐ろしいことをおっしゃるマーガレット様。私は背中がゾクッとした。


「あの、公爵様を潰すとは一体……?」

 恐る恐る尋ねてみる。

「具体的に言うと、お父様を領地送りにして引退させて、爵位をお兄様に譲らせるという意味よ。別に消したりしないから安心して」

 消す……とは? いや、これ以上は怖くて聞けない!

「そこまで考えていらっしゃるとは……驚きました」

「だって私は国外追放なんて絶対にイヤだもの。私のお兄様はね、子供の頃からずっと私の一番の理解者であり協力者なの。本当はお兄様も攻略対象者なのだけど、昔フラグを折ったから大丈夫。私の完全な味方よ。だからいざとなればお兄様と力を合わせてお父様を追い出すわ」

 コウリャクタイショウシャ? フラグを折る? 謎の言葉に戸惑う。

 でも私にはもう一つ、別の疑問が浮かんだ。


「あの、私とバルド様が婚約した場合、マーガレット様はご自分の嫁ぎ先はどうなさるおつもりなのですか?」

「私はお兄様と結婚するわ」

 えっ!? あっけらかんと何ということを! まさかの禁断愛!? 

 私は驚愕の表情をしていたのだろう。

「やだ、フローラ。勘違いしてない? 私とお兄様は実の兄妹じゃないのよ。知らなかった? お兄様は小さい頃、事情があって分家からダンドリュー公爵家に養子に入ったの。私とお兄様は正式に結婚できるのよ」


 あー、びっくりした! そうでしたの?

「マーガレット様はお兄様のことがお好きなのですか?」

「うふふ、もちろんよ。私とお兄様は相思相愛なの。だからこそ、お兄様も本気で私を殿下の婚約者候補から外すつもりなのよ。ちなみにお母様も私達の仲を応援してくださってるの」

 なるほどー。

「では、マーガレット様を王太子妃にさせたがっているのは、ご家族の中では公爵様だけということですの?」

「そういうこと。お父様一人で勝手に盛り上がって画策して王家に盾突いて……本当に邪魔!」

 うわ~。公爵様がちょっとお気の毒になってきましたわ。でも、マーガレット様は「消すわけではない」とおっしゃってるから大丈夫よね? うん、きっと大丈夫!



「フローラ!」

 突然、バルド様の大きな声が聞こえた。

 バルド様がこちらに走って来るのが見える。そんなに慌ててどうなさったのかしら? バルド様の額には汗が浮かんでいた。

「フローラ! 探したぞ!」

 えっ? そうなの?

「クラスの奴がフローラが上級生に呼び出されて何処かへ行ったって言うから、心配で探してたんだ」

「まぁ、そうなのですか? 申し訳ありません。ご心配をおかけして」

「いや、無事ならいい。マーガレットと一緒だったんだな」


「殿下。その『上級生からの呼び出し』の件で私からお詫びを申し上げます」

 マーガレット様が厳しい表情でバルド様の方に向き直る。

「ん? 何だ? マーガレット」

「私の友人達がフローラをこの西庭に呼び出して、あろうことか5人で取り囲んで言い掛かりをつけておりましたの。彼女達は、私の為にフローラを殿下の婚約者候補から引きずり降ろしたいと考えているようでした。本当に申し訳ございません」

 マーガレット様は深々と頭を下げた。


「何だと!? 5人でフローラを取り囲んでそんなことを!?」

 もともと鋭いバルド様の目が一層鋭くなる。

「バルド様! マーガレット様が助けてくださったのです! 確かに5人の上級生に言い掛かりをつけられましたが、マーガレット様が助けてくださって実害はございません。私は大丈夫でございます」

「フローラ」

 バルド様は私を抱きしめた。

「怖かっただろ? 無事で良かった。でも、そいつらは許さん!」

 うゎ~、怒っちゃってるな~。

 

 マーガレット様が言う。

「殿下。私もその友人達を放って置くつもりはございません。彼女達を処罰するよう我が公爵家から学園に申し入れを致しますわ」

「わかった。王家からも学園にそいつらの処分を求める。フローラ、そいつら全員退学処分でいいか?」

 えーっ!? 退学!? それはやり過ぎでしょう?!

「いいえ、バルド様。私はそこまで望みませんわ。暫くの謹慎で十分でございます」


「フローラは可愛いうえに優しいな」

 私を抱きしめたまま髪にお顔を埋めてくるバルド様。

「あー、フローラの匂いがする」

 ちょっとちょっと! マーガレット様の前ですのよ!

「バルド様。恥ずかしいですわ。やめてくださいませ」

「誰も見てないから」

 バルド様のその言葉を聞いて、マーガレット様がクスクス笑い始めた。

「殿下は本当にフローラしか見えていらっしゃらないのですわね。ここまで私の存在を無視する男性は殿下だけですわよ」

「あ、マーガレットがいた」

「さっきからずっとおります。というか殿下と今、お話ししていましたでしょう?」

「そうだったな。すまない。フローラの匂いをかぐと何だかふわふわしてきて周りが見えなくなるんだ」

 えーっ!? バルド様! 何ですか、それ?!

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