22 ついに結婚
バルド様と私は、6年間通った王立貴族学園を無事に卒業した。
そして卒業式の翌月には二人の結婚式が予定されていた。
バルド様が指折り数えて待ちわびていらした結婚式当日。
「フローラ、綺麗だ。ずっとこの日を待っていた……幸せだ」
ウェディングドレス姿の私を見て、バルド様は感極まっていらっしゃる。
「バルド様も素敵ですわ。私もとても幸せです」
「フローラ……」
そっと私を抱き寄せるバルド様。
私、とうとうこの人と結婚するのね……
式が始まり、私たちは結婚の誓いを立てた。
誓いのキスをする時、バルド様の鋭い目には涙が浮かんでいた。
バルド様は、唇にほんの少し触れるだけの優しいキスをした後、私にだけ聞こえるように耳元で「愛してる」と囁いた。その低く甘い声にくらくらする私。不意打ちは反則ですわよ、バルド様。
結婚式の後は、王都の中央通りを馬車でパレードして国民から祝福を受け、夜は王宮で盛大な披露パーティーが催された。何せ王太子殿下の結婚なのだ。全てが豪勢できらびやかだった。私みたいな平凡令嬢が、この場所のこの席に居ていいのか? 何だか花嫁である自分がこの華やかな場で一人浮いている気がして、私は居心地が悪かった。
私の様子に何か感じたのか、
「フローラ、どうした? 大丈夫か?」
と、バルド様が心配そうに声をかけてきた。
「……大丈夫です。あまりにも豪華絢爛でちょっと気後れしただけです」
と私が言うと、バルド様は私の右手をご自分の大きな左手で包み込んでおっしゃった。
「気後れだなんて、何を言ってるんだ? 俺はもっと豪勢にやりたいくらいだ。フローラは世界一の花嫁だからな。俺は今、信じられないくらい幸せなんだぞ。お前と結婚できて本当に夢みたいだ」
う~ん、これを冗談ではなく本気で言っているところがバルド様の凄いところなのよね。バルド様にとっては確かに私は「世界一の花嫁」なのだろう。誰がどう思おうと、バルド様は私のことを真に愛してくださっているのだ。そして私もバルド様を愛している。バルド様は今日のこの日を本当に心待ちにしていらっしゃった。そんなに望まれて結婚するのだ。私が気後れなどする必要はないのかもしれないわね……
我が国では、結婚パーティーで新郎新婦が「愛のダンス」と呼ばれる伝統のダンスを踊る慣習がある。盛大な披露パーティーは、バルド様と私が二人で踊る「愛のダンス」で幕を閉じた。
こうして、朝から夜まで続いた結婚行事が全て終了した。結婚式、パレード、披露パーティーと実にハードな一日だった。
あ~、疲れた~。くたくただわ~。でも、まだこれから大切な”初夜”が待っている。初夜を全うして初めて本物の夫婦になれるのだ。とても重要なことだ。正直、疲労困憊だけれど何とかなるだろう、と思っていた。
私は湯浴みを済ませ、夫婦の寝室でバルド様を待っていた。侍女達が丁寧に私を洗い上げ、湯浴み後の肌の手入れも入念にしてくれた。何せ初夜である。準備万端なのだ。
寝台に腰掛け、ぼぅ~っとしていた。披露パーティー、きらびやかだったな~。何だか、まだ目がチカチカするわ。あー瞼が重い。バルド様、まだかな? ちょっとだけ横になろうかな? 扉をノックされたら起きればいいよね? こうして私は案の定……そのまま深く寝入ってしまった。
目が覚めたら朝だった。隣にはバルド様が眠っている。オーマイガー! やってしまったわ! 初夜で旦那様を待たずに寝落ち! 何という失態! 花嫁失格である! バルド様もバルド様だわ! 起こしてくだされば良かったのに!(我ながら酷い責任転嫁である)
私が頭を抱えていると、バルド様が目を覚ました。
「フローラ、起きてたのか? おはよう」
「おはようございます」
「どうした? 朝からそんな絶望的な顔をして。お前、そんな表情でも可愛いんだな」
何、言ってんだ? この人!?
私は寝台の上で正座をした。
「バルド様、申し訳ございませんでした。初夜にバルド様を待たずに眠ってしまうなど、あり得ない失態ですわ。本当に申し訳ありません」
ひれ伏す私。申し開きの余地がない。
「あー、昨夜のことか。気にするな。疲れてたんだろ? 俺も疲れてたし、披露パーティーでかなり酒を飲まされたから、ちゃんと王子が使いモノになるか自信がなかったんだ。だから気にしなくていい」
そうなの? ホントに? 私に気を遣ってくださってるの?
「フローラ、疲れは取れたか?」
「はい。ぐっすり寝たら回復しました」
「そうか。俺も一晩寝たら疲れが消えた。酒も残ってない」
バルド様は、その鋭い目でじっと私を見つめる。
「朝、目が覚めて隣にフローラがいるなんて夢みたいだ。俺は幸せだ」
そう言って、私を抱き寄せ口付けをするバルド様。そしてそのまま、寝台の上で私を押し倒して夜着に手をかける……んん? まさか!? 今から!? えーっ!! ちょっとちょっと、待ってー!! もう朝ですわよ!! すっかり陽も昇っていますわ!! こんな明るいところでイヤですー!!
「バルド様! やめてくださいませ! イヤでございます!」
「えっ?」
バルド様が私から身体を離す。
「嫌なのか……」
バルド様の表情がみるみる曇る。ものすごくショックを受けたみたいだ。
「い、いえ。こんな明るい時間にするのがイヤだという意味ですわ。バルド様、夜まで待ってください。今夜は絶対に寝落ちしたりせずに、ちゃんとバルド様をお待ち申し上げますから」
「……わかった」
「バルド様、夜まで待って頂きたいだけです。行為がイヤな訳ではありませんわ。本当です。私はバルド様の妃になったのですから」
「……わかった。すまなかった、急に。フローラは心の準備が要るよな」
「バルド様……」
「俺のこと好きだよな?」
「愛していますわ」
「俺も愛してる。フローラだけをずっと愛してるんだ。フローラ以外愛せない。お前だけだ」
「よくわかっております」
「……今夜、絶対だからな」
「お約束いたします」
「絶対だぞ」
「はい」
バルド様は私を抱きしめると耳元で囁いた。
「絶対だからな」
しつこーい! わかってるてばー! 3回以上繰り返すと変態っぽいですわよ!!




