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1 出会い~10歳~

 


 私は侯爵家令嬢フローラ・クライン。

 私が、初めてバルド王太子殿下にお会いしたのは、殿下も私も共に10歳だった春のこと。



 知らないうちに私は、バルド王太子殿下の婚約者候補になっていた。まあ、貴族令嬢とは、そういうものだ。恋愛結婚などというものは、平民のすることである。10歳でも、それくらいは理解していた。

 それでも、正式決定は本人どうしが顔を合わせてからにしよう、と提案してくださったのは国王陛下だとか。お優しい。


 ちなみにバルド王太子殿下の婚約者候補は私だけではない。私を含めた4人の貴族令嬢だ。その候補者の名前を聞いた時点で”あー私はただの数合わせだな”と分かって、正直ホッとした。だって、公爵家令嬢が二人も含まれていたのだ。残りは私と、我が家と同格の侯爵家の令嬢がもう一人。

 これはもう出来レースだ。公爵家令嬢のうち、どちらかが正式な婚約者になるはずだわ。私の予想では、お父上が宰相でいらっしゃるマーガレット様が選ばれると思う。


 マーガレット様は私や王太子殿下より二つ年上の12歳。何度かお会いしたことがあるけれど、ものすごい美少女だ。公爵家令嬢にして絶世の美少女。なのに驕ったところが一切なく、とても優しいお人柄で、実は私の秘かな憧れの方である。マーガレット様が私のお姉様だったら、どんなに素晴らしいだろう! 実際には生意気な弟が一人いるだけの私は夢想する。


 うん、王太子殿下の婚約者はマーガレット様で決定ね! 間違いない!

 私なんか、お呼びじゃないわ。




 私は自分が選ばれることはないと確信したので、とてもお気楽に、バルド王太子殿下との顔合わせに招かれた王宮へ、両親と共に向かった。

 のだが……



「王太子バルドだ」

 いきなり私を睨みつけてきた王太子殿下。

 え? 何、怒ってるの? 私達、今日が初対面だよね? さすがに初対面の人に睨まれるような粗相はしていないつもりなのだが……というか、今、顔を合わせたばかりですわよ?


「クライン侯爵家長女フローラでございます。よろしくお願いいたします」

 私が挨拶すると、ますます睨んでくるバルド殿下。きちんと最上級の淑女の礼をとりましたわよ? 一体、何なの? 私が何をしたっていうのかしら?


 以前から噂には聞いていた。

「バルド王太子殿下は目付きが鋭くて怖い」「言葉もきつくて恐ろしい」って。一緒に遊んで泣かされた貴族令息が何人もいるらしい。

 でも、まさか初対面でいきなり睨み付けられるなんて思ってもいなかった。イヤな汗が背中を伝う……うぅ、帰りたい! 来たばかりだけれど。


 4人の婚約者候補は、一人ずつ両親と共に王宮に招かれて王太子殿下と顔合わせをすることになっていた。3人の令嬢はすでに顔合わせを済ませ、今日の私が最後だと聞いている。

 もしかして、バルド殿下は、ただの”数合わせ令嬢”である私と会うのが面倒だったのかしら? きっとそうだわ。もう婚約者はマーガレット様に実質決まっているのに、私とわざわざ会うなんて”時間の無駄だ!”と思ってらっしゃるのだろう。

 とにかく、この場はおとなしくやり過ごすしかない。

 はぁ~……”王宮のパティシエの作った美味しいお菓子が食べられるかも!”なんて能天気な気持ちで来てしまった私がバカだったわ。


 国王陛下と王妃様、そして私の両親は、和やかに談笑している。でも、バルド殿下はジッと私を睨んだままだ。私は殿下の眼差しが恐ろしくて押し黙っていた。今にも射殺(いころされそうだわ。


  今日、初めてお会いしたバルド王太子殿下は、所謂キラキラした「王子様」のイメージとは程遠かった。黒髪に黒い瞳は我が国では珍しく、神秘的だと感じるが、冷たい印象は否めない。そして何より目付きが怖すぎる。まだ10歳の子供なのに、眼光鋭い強面なのだ。その威圧感は半端ではない。

 今でさえこの迫力なのだ。これから先、大人の男性に成長されたら、さぞかし恐ろしい容貌になってしまわれるのではないだろうか。いや、その方がむしろ他国に軽んじられなくていいのか? 我が国の平和の為にはいいことなのかもしれない……

 しかし、今現在その鋭い目でずっと睨まれている私はピンチである。まさに「蛇に睨まれた蛙」状態だ。泣きそうですわ! お父様、お母様、助けてくださいませ!


  陛下がにこやかにおっしゃった。

「バルド。フローラに庭園を案内してあげなさい」

 ちなみに陛下は金髪碧眼で中性的な美しいお顔をされている。王妃様は髪も瞳も蜂蜜色で、とても優しいお顔立ちだ。バルド殿下はどちらにも似ていない……殿下は今は亡き先王陛下(バルド殿下にとっては御祖父様)にそっくりなのだと聞いたことがある。つまり隔世遺伝ね。

「バルド。今の季節なら南東庭が見頃だ。フローラを案内して、二人でゆっくり話すといい」


 ひぇ~! まさかの「あとは若い二人で」ってやつですわ!? バルド殿下と二人きりなんて怖過ぎる! いえ、もちろん従者や護衛も一緒だと分かってはいるけれど……怖いものは怖い!

 私は一縷の望みをかけて自分の両親に目で縋ったけれど、お父様もお母様も華麗にスルー……酷い!




 バルド王太子殿下と王宮の南東庭園を歩く。

 殿下はずっと無言である。ものすごい圧迫感だ。私は殿下のお顔を見るのが怖くて、庭園の色彩豊かな花々を眺めていた。わ~綺麗ね~。蝶々も飛んでるわ~。蝶々さん、こんにちは! 私はフローラよ! ……現実逃避である。


「お前……」

 突然、殿下からぶっきらぼうに声をかけられる。

 ひぇ! 怖い!

「は、はい」

 恐る恐る殿下のお顔を見ると、やはり私を睨んでいらっしゃる。寿命が縮みそう!


「お前、可愛いな」


 えっ?! 今、この人、何て言った? 聞き間違いかしら?

 私が固まっていると、バルド王太子殿下はもう一度おっしゃった。

「お前、本当に可愛いな」

 えーっ!?

 私は焦った。

「あ、いえ、とんでもございません!」

「いや、お前みたいに可愛い女の子を見たのは初めてだ」

 言い方は、とてもぶっきらぼうなのだが……もしかして私、バルド殿下に褒められてるの? 口説かれてるの? 見初められちゃった?


 いやいやいや、自惚れてはいけない。私は、特別美しい容姿ではない。明るいブラウンの髪に緑色の瞳という色の組み合わせは、この国ではとてもありふれている。つまり平凡。落ち着いた緑色の瞳は、実は私自身はとても気に入っているけれど……身内とうちの使用人以外に褒められたことは一度もない。

 顔立ちそのものも、”まぁ、ちょっと可愛いかな? と言えないこともないのではないだろうか?”という実に微妙なレベルだ。いくら親バカの両親や我が家の使用人達が持ち上げてくれても、マーガレット様のような本物の美少女とは比べることすら不可能だと分かっている。さすがに10歳になれば、そのくらいは自覚しておりますわ。


 バルド殿下は、なおも私を睨み付けたまま、

「ホントに可愛い。お前みたいな可愛い子が婚約者候補だなんて夢みたいだ」

 とおっしゃる。

 私は混乱してきた。もしかして、からかわれてるのかしら?

 だって、おかしいもの。バルド殿下は他の3人の婚約者候補の令嬢と顔合わせを済ませていらっしゃる。つまりマーガレット様にお会いになっているのだ。あの絶世の美少女マーガレット様に。

 私、バルド殿下にからかわれてるんだわ! なんだ、そうか! そうだよねー。あー、びっくりしたー!


「殿下、からかわないでくださいませ」

 少し落ち着きを取り戻した私がそう言うと、

「からかってなどいない! お前は可愛い!」

 バルド殿下は、私を一層睨みつけると声を荒げた。

 ひぇ~、怖いよ、怖いよ! やっぱり、この人、怖過ぎる!

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