87話 埃はゴミ箱に捨てろ
ほこりはゴミ箱に捨てろ。
マジで思ってることです。
誇りの方ですよ!
「他人の家庭環境に踏み込むのは嫌いなんだけどよぉ。今回だけは土足で踏み込んでやるよ。第一の資料を!」
アヴェルは龍の紙の束を渡す。
龍が事前に言うことを書いた物とその証拠を纏めた物だ。
「何だそれは…」
「テメェらが世間様に公表してない情報。…アイザックの兄と姉は国王夫妻の実の子ではない。…両者の浮気相手の子供だ。まあ、とっくに浮気相手は死んでるけどな。無論、処刑により」
龍の口から発せられた一言により場の空気が凍りついた。
国王夫妻は汗をかいて周りの貴族や騎士は口を開けて夫妻を見つめる。
アイザックは目を大きく見開いて息を止めた。
一方、兄と姉は舌打ちをする。
「…証拠を示せ!!戯れ言ならば即刻にその首を跳ねるぞ!!」
「あんたらって教養はいい方だよな?魔血鑑定って知ってるか?」
魔血鑑定とはこの世界でのDNA鑑定の事だ。
また、魔血とは魔力を含んだ血液の事で、それを専用の魔導具で検査にかけると対象の魔力性質を明らかにできる。
そして魔力性質は親から子へ半分ずつ遺伝されている。
仮に龍の両親の魔血を調べれば龍が持つ魔力性質の半分は父親が、もう半分は母親が持っていることがわかる。
要するにDNA鑑定とは大して変わらない。
故にこの世界でもこの子供の親は本当にこいつなのか解明できるのだ。
「馬鹿にするな。それぐらい庶民でもわかる」
「その魔血鑑定やらせてもらったよ。五人の魔血を勝手に採血して」
「はぁ!?」
「で、結果はもう出ているんだよなぁ。是非とも皆さんにも見てもらいましょう。いやぁ、うちの研究員は優秀なこった」
龍は貴族や騎士の方に行って検査結果が書かれた紙を渡し始める。
国王をそれを止めようと玉座から立とうとするが寸前で中断した。
理由は動揺した貴族が既に問いただしてきたからだ。
「陛下!この結果に納得のいく説明をお願いします!魔血が一致されているのは元王子だけですよ!!」
俺がこんなことを思いついたのはアイザックの兄と姉の写真を見た時だ。
アイザックが兄と姉と全く似てなかった。
まるで母親が違うかのように。
試しに調べてみたがシュトルツ騎士王国は一夫多妻制ではなく一夫一妻だった。
なので導き出される答えは一つ、浮気相手の子供。
「その者が改竄したに決まっておる」
「そう言うと思って持ってきましたよ!さあ!公の前で検査しましょうよ!」
王の護剣と龍以外はヘイスが玉座の前に運んできた魔導具を見つめて唖然とする。
言い逃れができないよう実物が目の前に置かれたからだ。
運ばれてきたのは魔血鑑定をするための魔導具だ。
「貴様いったい何者だ…」
「それ今は関係ないでしょ?やるのやらないの認めるの認めないのどっちですか?」
龍は王と妃に威圧しながら訊ねるが両者とも一向に口を開けない。
だが黙秘権などこの場では無用なものだ。
容赦なく龍は次の刃を突き出した。
「皆さ~ん、二ページ目に移ってくださ~い」
「二ページ目?これのことか。…!?」
「さすがにビビるわな。処刑者一覧を見せられたら。そこの二人の誕生日以降に処刑された者を調べた。これどういうこと一族勢揃いで日別に処刑されてるけど?」
(これは各大臣が陛下に言及したがうやむやのまま済まされたという出来事だったな。確か罪状は王子の誕生日以降のは一族総出での不敬罪で王女のは国家叛逆罪に荷担だったな。首謀者と共に処刑され…)
「偶然かこれは?」
「やはり、お前もそう思うか?」
話しているのはその時に言及した大臣とこの国の騎士団長だ。
二人とも当時の不審な点が脳裏を横切ったのである。
疑惑の念に染まりつつある二人だったがそれは確信の者に変わった。
「それと三枚目はその一族の魔血鑑定結果だ。火葬してなくて助かったよ。躊躇ったが事情を墓前で話して拝んだ後に拝借した。見事に二人と一致してる。言い逃れはできないぞ。さっさと吐けや」
「陛下!今度こそ納得のいく説明を!」
それでも王と妃は断固として口を開けようとしない。
それに痺れを切らした騎士団長は玉座付近に上がる。
「これも陛下の身の潔白を示すためです!失礼します!」
「何をする!」
そして四人の指先を魔法で作った針で刺して血を採り魔血鑑定をするために魔導具を使用した。
「…見損ないました。結果は変わりません。この二人は王族ではない!」
「あらら遂にバレちゃったね。さて、次の資料をっと」
「貴様は何をする気だ!この王国を滅ぼす気か!」
「やっと開いたと思いきやそんな事を聞きたいのか…。貴様らの醜態をさらすだけの無血戦争だよ」
「その者らを処刑しろ!」
国王は騎士に龍の処刑命令を下すが騎士は動かなかった。
龍は小馬鹿にしたように笑って資料を開ける。
「あら?命令を聞く人が誰もいませんねぇ~。自分は浮気相手の子供だと偶然にも知ってしまった義兄と義姉はアイザックを虐めるようになった。これはメイドと執事情報だ。まあ、突き動かしたのは嫉妬心ってところか?更に国王夫妻がアイザックのことを愛してないと知った二人の虐めはエスカレートした。解明」
俺がアイザックに解明をかけるすると義兄と義姉の魔法によって隠されていた傷痕が次々と現れた。
まさかあの時と同じ場面を加害者であるアイザックで見るとはな。
「このような環境で育ったアイザックは当然、誰かを愛することを知らない。なので何も考えずに誰かを傷つけれる。ここで少し休憩!陛下、どちらのリンゴが好みですか?」
龍は懐からボロボロのリンゴと綺麗なリンゴを出した。
「そちらの綺麗な方だ」
国王は龍からリンゴを受け取って口にするがすぐに吐き出す。
それに対して美味しそうにかじり続ける。
「このリンゴ、見た目は悪くても味は良いって評判なんだよ。一方、そっちは見た目は良いがマズいと評判。何が言いたいかっていうとテメェらだよ。表面は綺麗に整えて裏ではドス黒い反吐が出るね。お二方、今の心情を教えてくれませんか?」
「最高と最悪の気分だねぇ…。お前の言うとおりだ。俺達はこの愚弟と愚親が嫌いだ」
「だろうね。これ以上、掘ってもきりがないので最後だ。例の物を持ってきて」
キースは笑いながらキャンバスを持ってきて床に置く。
「面白いか?」
「ええ、とても」
「さて、これは何を例えたモノだと思う?よく使う手だよ」
「…画材でしかないだろ」
「生まれたての人の心だよ」
龍は創造で絵の具を創って上から垂らしていく。
絵を描くこともなく場所も関係なくに様々な色を垂らす。
黒色や灰色、深い緑、深い青だけで明るい色なんて何処に見当たらない。
「人ってのは最初は真っ白な心を持っている。そして育った環境や人がそこに色を加えていく。ここで問題だ。犯罪者の家で育った貴族の子と貴族の家で育った犯罪者の子、どっちが犯罪を犯す?」
「そんなの貴族の家で育った犯罪者の子に決まっておる」
「正解は犯罪者の家で育った貴族の子だ。例えた家柄が良くても育てる奴が悪ければそいつも悪くなる。そこの愚兄、愚姉のようにな。さて、完成だ。タイトルはアイザックの心」
龍は余った絵の具を消して画材を立てかけた。
そして怒りをぶちまける。
「要はアイザックを作ったのはテメェらだ!騎士が掲げる誇りなどどうでもいい!そんなのゴミ箱に捨てろ!アイザックの心を壊したのはテメェらの身勝手な思いだ!」
国王夫妻の醜態がさらされていき笑みをこぼす貴族が出てきた。
だが龍はその貴族を睨んでこう言う。
「人事だと思うなよ!この中にこの現状を知ってる奴はいた筈だ!何で手を差し伸べなかった!騎士の誇りってモノはないのか!天国の祖先が泣いてるぞ!」
そして、その最中に不思議な光景が膿まれていた。
アイザックが泣いてる。
今まで抑えてきた気持ちを自分が殺そうとした奴が代わりに必死で訴えかけているから。
彼は戦争をしているんじゃない。
自分のことを必死でかばっているんだ。
生まれて一度も誰にも守られなかった。
だけど今は彼が守ってくれている。
しかし、それが胸糞悪い。
どうして今、その言葉を放っているのが自分じゃない。
溢れ出す気持ちを抑えきれずに気がつけばアイザックは叫んでいた。
「止めろおぉぉぉぉぉぉ!!もういい!止めてくれ!父上と母上は何も悪くない!この環境を変えれなかった自分が悪いんだ!だからもう、僕の代わりに必死で訴えるのは止めてくれ」
ああ、それでいい。
そんな腸が煮えくり返るような感情を堪えるな。
男でも助けを求めるためなら必死に叫んでもいい。
だがお前は力に溺れるという結果を選んでしまった。
そしてお前は心を許せる本当の友達さえも裏切ってしまったんだよ。
「これで終戦だ。それとこの資料を確認した後に返してくれ」
龍は残った紙の束を全て国王夫妻に渡した。
「…これはルシフェル大帝国と結んでいる条約の原本?どうして貴様が持っている」
「俺が次期皇帝のノボル・イフェルノだからに決まってるだろ。という訳でノボル・イフェルノの名のもとに我が大帝国と汝の国が結んだ条約を全て破棄する!」
龍はその場で条約の原本を細切れに切り刻んだ。
皇帝だからできる最悪の仕打ちである。
知らぬ間に国王は大国との関係が悪化させていたのだ。
「紹介が遅れたな!俺の名はノボル・イフェルノ!ルシフェル大帝国の次期皇帝だ!もし、腹いせに戦争を仕掛けるのなら遠慮なく叩きのめす!」
「…余に戦争の意思は…ない」
国王はその場に座り込んで自分の意思を示した。
理由はルシフェル大帝国の軍事力を知ってるから、自国の大半の経済がルシフェル大帝国により支えられていたからだ。
脳内にあるのは裏切りの果てに築いた国と民のこと。
停止した暴走列車には運転手が一人だけ乗っていた。
「行くぞ。アイザック、お前の身は俺が守る。それと大帝国の騎士団に入団させたからな。環境は与えた。後はお前次第だ。俺をがっかりさせるなよ」
「…はい。ありがとうございます。皇帝陛下」
愛に飢えて行き場をなくし倒れていた餓狼は救われた。
そして誓った。
今度は僕がこの人を守ってみせる。
その姿はこの場に佇むどの騎士よりも輝いて見えた。
次回!第六・五章!
アイザックを帝国民に加えた龍、龍の正体を知って騒ぎ出す世間!
それから逃げるために龍は日本に帰る!
第七章は日本篇です。
それではまた次の話で!




