83話 英雄の帰還
英雄魔王の血筋、帰還!
龍は獲物を携えて何段もある階段を駆け上がる。
一方、アイザックは視界を取り戻すために上へ上へと上昇してゆく。
龍の作戦通りだ。
アイザックは龍を狙っているが白煙により龍が見えない状態になっている。
ならば視界を取り戻すために上昇する筈だ。
追い詰められてるのとは知らずに狂人は笑顔を浮かべて柄を握る。
話は変わるが今日のユルグレイト学園は大変危険な構造となっている。
仮に浮遊や飛行を習得してない者がそこに行けば確実に死んでしまう。
しかし、龍は逆にそれを利用しようとしている。
一つの大きなリスクを背負って。
「もう逃げられないぞ明野!さっさと出てこい!」
(木の葉が生い茂ってよく見えないが奴も同じだ。それに打ち払えば済む話だ。飛んだって同じことさ。さあ、遠慮なく無様にその姿をさらせ!)
アイザック、テメェは自分が絶対に勝てると思っているだろ。
だが、その傲慢さが命取りとなる!
別に魔法以外でも喉元に食らいつく方法はいくらでもあるんだよ!
「魔族化五十パーセント!」
龍は階段を壊すほどの勢いで駆け抜ける。
ユルグレイト学園の木々が揺れて危険な何かが迫っていることを伝えるが傲慢なアイザックに気づく筈がない!
そして今日のユルグレイト学園の最上階にある扉の向こう側は自由が広がる大空だということを知る由もない!
龍は扉を蹴破り外に飛び出した!
木の葉が生い茂る木々から飛び出してきた漆黒の魔族がアイザックの懐に迫る!
「終盤戦の始まりだ!落ちろアイザック!」
アイザックの懐に飛び込んだ龍はアイザックの腹に大剣の腹をぶち込む。
そしてアイザックの体が地面と平行になった瞬間に両手を離し、大剣に魔眼の力を使って重力を増加させてアイザックを地面に落とした。
「これでどうだ!!」
「糞野郎!!やっぱり魔族じゃねぇかあいつ!」
執念やら私怨やらでまだ動きやがる。
ゴキブリならすぐにくたばるけどアイザックは厄介だな。
死んでも蘇ってきそうで怖い。
俺は地上に戻るために降下しようとしたがユルグレイト王国の現状が目に入ってしまった。
あちらこちらから火の手が上がり今も学園の近くで何かが爆発した。
城の方に目をやると屋敷が心配になってベランダに出てきたであろう貴族がその場に膝を突いて頭を抱えている。
ルシフェル大帝国からの援軍は到達したけど希望なんて言葉がどこにも見当たらない。
これが俺の甘さが招いてしまったものなのか…。
…こんなちっぽけな言葉で少しでも希望が湧くのならいいや。
『何をする気だ龍!まさか…止めろ!取り返しのつかないことになるぞ!お前の平穏がここで終わってしまうぞ!』
ゼロは必死で龍を止めるが龍はゼロの言葉に耳を傾けることなく大きく息を吸った。
そして拡声器を創って大声でこう言った。
「ユルグレイト王国の国民及びユルグレイト王国の危機に駆けつけてくれた誇り高き我がルシフェル大帝国軍に告ぐ!」
そんなに心配するなよゼロ。
俺の日常は代わりやしないさ。
むしろ騒がしくなるくらいだ。
それに今やらないとこの日常が崩壊してしまう。
それに今やらないと皇帝になろうとも俺は一生後悔する!
『龍…』
「俺はノボル・インフェルノ!英雄魔王ルシフェル・インフェルノの血を引き継ぐ者だ!再びこの地に」
龍はもう一度、大きく息を吸って叫ぶ。
「…帰ってきたぞおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
龍の正体を知らぬ者は全員、声のする方を向き英雄魔王の血の帰還を祝うかのように喝采の声を上げた。
ルシフェル大帝国軍は一斉に『皇帝陛下万歳!』と何度も叫ぶ。
一方でキース以外の王の護剣とクラウスは龍の予想外の行動で驚き開いた口が塞がらない状況になっている。
そして一番、驚いてるのはアイザックだ。
仰向けになりながら目を丸くして上空を見上げる。
アイザックは龍のことを魔族の貴族かと思っていた。
龍が次期皇帝など予想外のことだったのだ。
太陽が頂点に達した真夏の快晴の空に英雄魔王の血が帰還した。
次回、本当の意味での龍とアイザックの戦いが幕を開ける!
それではまた次の話で!




