6話 序盤はスライムよりゴブリンと
ファンタジーゲームの序盤はスライムのイメージがありますが龍はスライムとは違う別の魔物と戦ってもらいます!
俺は異世界の景色を眺めることなく親父に渡された、この便利ブックを読んでいる。
まあ、何というかサバイバル本?的な印象だ。
先の魔法陣もそうだが役に立つ便利な知識が記載されている。
あと時折、汽笛が読書の邪魔をしてくる。
あの時は気づかなかったが汽車に乗車しているようだ。
ちなみに、この汽車は十二両編成で六両目に乗車している。
そんな感じで汽車に揺らされて頁を捲っていると、一枚のモノクロ写真が挟んである頁を見つけた。
恐らくは戦前に撮影されたのであろう。
自宅の前で撮られているが所々、細部に違いが見られる。
被写体は赤ん坊を抱いている角を生やした女性である。
そして裏面には親父の字で『母さんだ。今も生きているよ』と書かれていた。
何時の事だか忘れたが親父に『母さんは俺を産んだ時に死んだ』と聞かされていたからだ。
というか母さんは鬼なんだな。
…心までは鬼じゃないと思う…たぶん。
まあ、この写真は大切にこの本に挟んでおこう。
「ねえねえお兄ちゃん、さっきから読んでいる本なぁに?」
「この本は…難しい本」
そういえば先ほど停車した駅で三人組の親子が乗車した。
厳ついお父さんと村娘ぽい見た目をしているお母さん、そして今にもハシャぎそうな女の子である。
別に云々かんぬんと垂れ流すような文句は持ち合わせていない。
強いて言うのであれば俺の横で厳ついお父さんが腕を組んで座ってる事ぐらいか?
どこの軍人さんですか!
「そうなんだ!絵本かと思ってた!」
今更だけど、この人達は日本語を読めるのか?
『絵本』と言うからには文字は読めていないのか?
「…トイレ行きたい!」
「パパと一緒にトイレに行きましょうね~」
厳ついお父さんのイメージが崩壊した!
まさかの親バカ!腕組みは威厳を保つためか!
「パパ、うっとうしいからヤダ!」
パパにその言葉は言っちゃダメ!
言うとしたら反抗期に言ってあげて!
いや、それでもダメか?
「じゃあ、ママと行こっか」
「うん!」
女の子はお母さんに手を引かれてトイレに行った。
…お父さん、燃え尽きて灰になってやがる。
「…大丈夫ですか」
「まあ、何時もの事だよ。反抗期かな…」
「頑張ってください…」
母子がトイレから戻ることなく汽車はトンネルに入った。
いや、トンネルではなくレールを通して掘削等で広げていった大洞窟だ。
色彩豊かなクリスタルと天井から垂れ下がる鍾乳石は現実離れしている。
異世界にはこんな景色があるんだな。
「圧巻の光景だろ」
「ええ」
「これを観るためだけに、この路線を利用する奴も居るんだぜ」
「その気持ち理解できます。…あれは看板か?」
俺は徐々に近づいてくる大きな看板に気づいた。
大きな文字と人型のシルエットで構成されている。
よっぽど大事な内容なのだろう。
「え?ゴブリンに注意?」
「ああ、ここいらは昔、ゴブリン共の巣があったらしい。討伐されて今は見かけないが一応な」
列車が鍾乳洞を抜ける時、窓ガラスが割れる音が前方車両から聞こえた。
そしてガラスの破片が窓の外を流れていった。
「何の音!」
「恐らく盗賊団か考えたくないがゴブリンだ!」
「トイレは後ろの車両ですか!」
「前だ!二両目のレストランの方だ!」
…個室から飛び出して廊下を駆けていったな。
あの人、武器を持たずに出ていったぞ!
でも、魔法で何とかなるのか?
…ああ、念のために俺も行くか!
一方、前方車両では窓を割って三体のゴブリンが侵入していた。
平穏な空間に突如、出現した魔物に乗客はパニックを起こし、我先に後方車両に雪崩れ込む。
「ゴチソウイッパイ」
「ボス、ヨロコブ」
「アレ、ウマソウ」
ゴブリンは逃げ遅れたあの女の子に目を付けていた。
逃げようにも腰が抜けて立ち上がれない。
母親は人混みを掻き分けて娘の前に飛び出る。
「この子に近づかないで!」
新たな餌の到来にゴブリンは歓喜の声を上げて近づいてくる。
だが、その時、人混みを飛び越えて出てきた男がゴブリンを蹴飛ばした。
「俺の家族に指一本触れてみろ!ぶっ殺してやる!!」
「パパ!」
「もう、大丈夫だ!」
「あなたヘタレのくせに何で出てきたの」
実はこの父親、見た目だけで中身はヘタレなのだ。
けれども家族の一大事となれば自然と勇気が沸いてくる。
「大事な家族を守るためさ!」
「マズハ、オマエカラ、クウ」
しかし、ゴブリンは父親の眼光に怯えていない。
本能的にこの者が自分の脅威になり得ない事を理解しているのだ。
無慈悲にもゴブリンは飛びかかり斧を振り下ろす。
「グギャ!」
「へ?」
だが斧は弾き返されてゴブリンは衝撃で床を転がる。
一家の前には先ほど席を共にした少年が立っていた。
「流石は一家の大黒柱!ナイスガッツ!」
これがゴブリン、子供サイズで思っていた以上に小さいな。
筋肉質だが片手で投げれそうだな。
「兄ちゃん」
「あとは俺が何とかします!」
「頼んだ!」
お父さんは妻子を連れて一両後ろに逃げていく。
それに続いて逃げ遅れた客も避難した。
「…傭兵とか乗ってないんか!」
いや、普通はこういう状況を想定して傭兵の一人や二人乗車させてるでしょ!
…後方車両に居て来るのに時間がかかってるとか?
「オマエ、ジャマシタ、クウ」
平和的に解決は…無理だな。
そもそも言葉が聞き取りにくい。
それに平和的解決を望める状況か!
ゴブリンは声も上げずに襲いかかる。
しかし、龍は難なく交わして背中を斬りつける。
「クギャ!」
幸いにも素人の動きだな。
お陰様で難なく対処できるよ親父。
でも、飛び道具、弓矢ぐらいは扱えるんだな。
龍の頬の近くを原始的な矢が通り、背後の床に突き刺さる。
前方には机に乗り弓矢を構えたゴブリンがいた。
念のために龍は椅子の後ろに隠れる。
…拳銃も持ってこれば良かったな。
刀を投げて…命中しなければ素手、流石にそれはないな。
ってかもう一匹は何処に行ったんだよ。
まさか恐れをなして窓から飛び降りたとか?
…んな訳ないよな。
「よう。元気にしてたか?」
「グギ!?」
偶然なのか悪魔が微笑んだのか身を隠しながら後方車両に向かっている、もう一匹のゴブリンと目があった。
そして龍は笑いながらゴブリンの武器を奪い取り、先ほど思った事を実現する。
「まあ、そっちに行かんと協力してくれよ!」
首根っこ掴んで全力で素早くぶん投げる!!
「グギヤャャ!?」
そう刀の代わりのゴブリン投擲である。
二匹のゴブリンは激突して体が重なりあう。
すかさず龍は間を寄せて刀で二匹を貫き引き抜く。
そして最後に奪い取った剣らしき武器を突き刺してトドメを刺した。
「…何とか無事に終わったぁ」
「すげぇな兄ちゃん!あんた冒険者か?」
「転校中の高校生。それよりお怪我は?」
「あんたのお陰で怪我なしだ!」
「それは良かったです!」
「グギィ……」
最初に斬ったゴブリン、致命傷を避けていたのか。
でも、床を這うので精一杯だな。
…なるべく苦しませずにトドメを刺すか。
生き残って乗客からリンチを受けるのは嫌だろ。
龍は背後で踞ってるゴブリンにトドメを刺そうとする。
だが一歩、足を止めて刀を止める。
ある疑問が頭をよぎったからだ。
そういえば、この三匹だけであんな大きな音を出せるのか?
俺が聞いたのは確かに窓ガラスが割れる音だ。
しかし、それ以前に何かが屋根にのし掛かる音を聞いた。
…これは考えすぎではないな。
「下れ!!」
何者かが屋根を力強くノックする音が響き渡る。
徐々に天井にヒビが広がっていき天井が崩落する。
そこから降ってきた生物にゴブリンは踏み潰されて絶命した。
「オークだ!!」
「ハラヘッタ!!メシ、マダカ!!」
「流石にこれは不味くないか!?」
序盤なんだしせめてスライムにしてくれよ!
ということで龍VSオーク!
剣と銃だけの龍のオークをどう倒すのか!




