4話 開かれた異世界への扉
今回の話で異世界に転校します!
要するに孫が祖父のいた世界に行くということです。
先ほどまでの出来事は白昼夢を見ていたようで、山頂から麓へと下りれば変わらない日常がそこにはあった。
恐らく、っていうか確かにあれは現実だった。
しかし、吹き飛ばされた下半身を含め、灰塵に帰したズボンが存在しているのはおかしい。
いや、二度とこんな非日常的な体験は起きない筈だ。
という訳で無駄な思考は放棄する!
「とは言えマジであれは何だったんだ?…さっさと帰るか」
容赦なく照り付けてくる太陽から逃れるように俺は自宅の正門を潜り抜けた。
物置の定位置に自転車を止めて、荷物運搬用の台車に米袋を移す。
そして、ため息を溢して帰りに自販機で買ったジュースを飲んで台車を動かす。
額から汗を垂らして、荷物運搬用に施工された坂道を登る。
それにしても何故、ご先祖様は山頂近くに家を建てたのだろうか?
『景色が良かった』等の衝動的な理由で建てたのに違いない。
いや、経緯は不明だが、敷地の山頂付近に産土神を祀る神社があるからだ。
本当に俺の家は奇妙な歴史を歩んでいるな。
それもあり家まで車道を通すことができない。
爺ちゃんも門下生も麓の駐車場に車を停めている。
というか車が通れるような傾斜じゃない。
多分、全力でアクセルを踏み込まないと上れない。
しかし、幸いにも年中無休で動いてくれるエレベーターが取り付けられている。
…電気代?太陽光発電万歳だ、現代技術万歳だ。
さて、もう少しでこの苦行は終わりを迎える。
エレベーターにさえ着けば、この米袋を運ばなくて済む。
だが、そんな淡い希望は昇降ボタンに張られた一枚の紙で消滅した。
それには爺ちゃんの字で『故障中ダッシュで駆け上れ!皆の師範代より』と書かれていた。
ああ、真夏の悪魔が俺を嘲笑っているよ。
真夏に天使など居なかったのである。
「昼間に修理屋さん呼べや!!」
理不尽な怒号を上げて全力で台車を押しまくった。
怒りをパワーに変えたのか予想以上の速さで辿り着いた。
鯉を飼っている池の近くに誰か居る?
「また会いましたね。ここの門下生?」
…俺の記憶を消しに来たのか?
「ここの子供。入門なら万年お断りだぞ」
「…いえ、違います。父の付き添いです」
当然だが門下生の子供ではない。
そうであったのならば、とっくに気づいてる。
それに定期的に懇親会を開くから、殆どの門下生の子供の顔は覚えている。
ってか日本語を流暢に話しているけど外国人だ。
あの時は生きるのに必死すぎて気づかなかったな。
「家の中で待つか?」
「…では、お言葉に甘えます」
「ただいま」
見慣れない靴が置いてある。
本当に客人が来てるんだな。
俺は少女を使用していない客間に通した。
また、爺ちゃんと客人の父親は隣の客間を使用しているようで談笑が聞こえてくる。
以前からの知り合いなのだろうか?
「お茶と和菓子、遠慮なく食べてくれ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、また後で」
とりあえず自分がやれることはした。
…米袋を台所に置いてから風呂に入ろう。
夏場にあれだけ動いたんだ、シャワーぐらいは浴びたい。
さて、風呂場から上がり自室に戻ろうとすると爺ちゃん『客間に来い』と呼び止められた。
仕方なく俺は急いで髪を乾かして客間に入った。
客間には中世ヨーロッパ風の服を着た先ほどの少女の父親であろう金髪の中年男性が座っていた。
この服装、世界公演を行っている何処かの劇団関係者か?
「これが俺の倅です」
…ついでに麦茶でも持ってくれば良かったか?
この暑さで思考がやられてるぞ。
「明野龍です。息子ではなく孫です」
「…まだ伝えていなかったのですか?」
「父の死からそれほど経ってないからな。それにまだ、そちらの世界と関わらないだろうと判断していた」
「初めまして魔王ルシフェルの御令孫、明野龍様。私はユルグレイト学園の学園長のジェイス・ケイスフォルンと申します」
おいおい、隠しカメラでも置いてあるのか?
急にファンタジーじみた演劇が始まったぞ。
それともドッキリを仕掛けているのか?
なるほど、昼間のあれは最先端のドッキリですかぁ。
「龍、お前はこの学園長の学園に通い魔法を学んで世界を救うんじゃ」
いやいや、長話をし過ぎたせいで暑さにやられたんだ。
「……麦茶、お持ちしますね」
「冗談は言ってないぞ。それに夏の暑さにも負けてない」
「…部屋に戻るぞ」
「待て!待て!立ち去ろうとするな!ご先祖様で一番有名なのは誰かわかるか!」
…えっと確かルシフェルだったか?
戦国時代に異国から来日して豪商にまで成り上がり
、侍の身分を得た人だ。
「ルシフェル?」
「それがお前の爺ちゃんだ。戸籍上は儂の孫だがな。お前は魔法で成長速度を遅くしておる。十代の見た目じゃが年齢は百十六歳だ」
「バッカじゃねぇの!百十六歳とか戦争体験者じゃねぇか!てか、百十六年生きる人間がどこに居んだ!」
「お主は人間ではない!魔族だ!」
魔族?ファンタジー小説の悪役代表のあれ!?
「龍様、当学園に転校して世界を救ってください!」
「だぁかぁら!!俺をお前らの変な世界に巻き込むな!演劇の練習をしたいのなら二人でやれ!」
今日はエイプリルフールじゃないぞ!
エイプリルフールでもこんな嘘は絶対つかねぇ!
「お前が拒否したところで転校の手続きはもう済ましているぞ」
「それでは我々はこれで。帰るぞシアン!」
「了解しました」
うわっ、いつの間に。
「それではお待ちしております」
少女の父親が障子を開くとテレビで見たことがない異国の街並みが広がっていた。
疲れすぎてとうとう幻覚まで見だしたか。
二人が障子を潜り抜けると、障子には誰も触れていないのにピシャリと音を立てて閉まった。
俺は急いで障子を開けて確認するが、そこにはいつもと同じ廊下が佇んでいる。
「荷物は全部こっちに入れたぞ。向こうに入ったらこれ読んどけ」
爺ちゃんから登山家が背負いそうなリュックと分厚い本を渡された。
いつの間にこんな物を用意していたんだ。
「この穴に入ったら異世界じゃ」
そして爺ちゃんが透明な鍵を砕くと和室に大きな穴が出現した。
その穴からは草花に覆われた岩場が見える。
ああ、まだ俺は夢を見ているんだ。
「さっさと入れ。この穴は直ぐに消滅する」
「いや、ちょっと待ってくれ理解が追いつかないんだけど!これは夢か!夢なのか!」
「つべこべ言わずさっさと行かんか!!」
爺ちゃんに背中を蹴られて俺は穴の中に押し込まれた。
背中の痛みと独特な大地の臭い!
演劇でもドッキリでも夢でもない!!
嘘だろ!これリアルか!!
「ちょっ!おい、待てや!糞爺!」
「達者でな~。それと糞親父な~」
「そういう事じゃねえぇぇぇぇ!!」
そして穴は消滅して眼前には見たことがない光景が現れた。
自然豊かな異界の景色は嫌でも俺に現実を叩きつけてくれた。
「最高の目覚めだな」
…話をざっと纏めるとここは異世界。
爺ちゃんは本当は父親でルシフェルが俺の本当の爺ちゃん、しかも異世界の魔王!
それで俺は世界を救うため異世界の学園に転校しました!
……理解せずとも今の現状には強制的に適応するしかない。
とりあえず追々、全てを理解しいく筈だ。
だって『今の現状が理解できるようになる本』ってこの分厚い本のタイトルにそう書いてあるから。
頼みの綱はこれだけか。
…ようこそ理不尽な現実と鼓動高まる好奇心、とりあえずは読書の時間だ。
次回から第一章開幕!
ちなみにワープ先は学園ではありません!
てなわけでプチ冒険スタート!
2000文字ぐらいでやっていきます。
多くても3000文字ぐらいです。
それではまた次回の話で!