35話 ルシフェル大帝国からの使者
龍を助けた魔族の正体がわかります!
まあ、タイトル通り、ルシフェル大帝国からの使者です!
学園裏にある大森林をしばらく歩き錆び付いた門を通ると植物に侵食され今にも崩れ落ちそうな古びた塔が見えてくる。
それがユルグレイト学園創設からある旧医療塔にしてユルグレイト学園七不思議の一つに数えられる曰く付きの施設だ。
何でも廃塔になってから内部から叫び声やうめき声、夜には蝋燭の火が見えてこちらを睨む鋭い目が目撃されている。
学園は門から半径五百メートルは立ち入り禁止としている。
学生達の間ではこの旧医療塔には学園創立当時に何かしらの実験により犠牲となった学生が魔物となり歩き回っていると語られている。
「っていう嫌な噂しかないユルグレイト学園七不思議の一つに数えられる旧医療塔に何であたしまで行かなきゃいけないの!」
(しかも夜って時間を選べ~!)
「フィアナは昔から怖がりだからな!」
「うるさい!お姉ちゃんなんとかして!…固まってる」
シアンは恐怖のあまり固まっていた。
この姉妹の似ている点は重度の怖がりだということだ。
「灯りが」
「冗談は止めてよエレノア!…ホントだ~!」
「大丈夫だ!さあ、入るぞ」
「お父さん絶対に離れないでね!」
フィアナはジェイスの腕にしがみついた。
「ほれシアン、固まっとらんと行くぞ」
「私、用事を思い出した」
シアンは来た道を戻ろうとする。
「覚悟を決めんか!」
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!」
逃げようとしたシアンをジェイスは首根っこを掴んで連れて行った。
「アヴェル殿!何処に居りますか!」
「奥の研究室ですよ」
(昼の魔族の声だ)
四人は研究室に行った。
するとそこには酸素カプセルのような魔導具に入れられたまだ暴走状態の龍が眠っていた。
このカプセルは魔法で龍の魔力を制御しているのだ。
そして昼にエレノアが遭遇した魔族が横に立っていた。
「やあ皆さん、夜分遅くに呼び出してしまってすみません」
「いえ、こちらの責任です。アヴェル殿には感謝しております」
「お父さん、この魔族と知り合いなの?」
口調からジェイスとこの魔族は知り合いのようだ。
そもそもこの様な設備が学園にある以上は彼とジェイスが知り合いでなければ一方的な不法侵入になる。
「ああ、彼はルシフェル大帝国出身の鳥類型の魔族、アヴェル・ゴブリードだ。龍君の専属執事を担当している」
「どうもアヴェル・ゴブリードです」
「ゴブリードってあのゴブリード家ですか!?」
シアンが驚くのも無理はないゴブリード家といえば魔王ルシフェルと共に世界を救い現在ではルシフェル大帝国を支えている魔王の家系にして五王家に数えられる由緒正しき名家だからだ。
そして五王家の当主は代々、魔王になる決まりがある。
「分家ですがゴブリードの名字を名乗っていい事になっております」
アヴェルは龍がこの世界に来る前に他の執事を引き連れてこの旧医療塔で龍に万が一のことがあった時に素早く対応できるよう医療設備などを取り付けていたのだ。
ちなみに七不思議の正体はアヴェル以前のルシフェル大帝国からの使者が原因である。
龍の父がこの世界に来た時用にだ。
「あのアヴェルさん、龍は大丈夫なんですか?」
「大丈夫とは言えませんね。あと三日はこの魔族の血を抑えるカプセルに入っていないと再び暴走します。他に訊きたいことは?」
「まだ魔族として覚醒していない龍が何でこんな事に」
「この魔眼のせいです」
アヴェルは龍の左目を指した。
まだ魔眼は元の色に戻っていない。
そして僅かだが閉じた瞼から魔力が漏れ出している。
「魔眼って世の理に叛逆せし神の魔眼のことですか?」
「ええ、その長い名前の魔眼のことです」
「アヴェル殿には魔眼について調べてもらっていたんだ」
ここ最近、アヴェルはずっと本の楽園に籠もっていた。
なお、生徒に見つからないよう隠蔽魔法等で姿や気配、音を消している。
「はい、我々の調べではこの魔眼のゼロ・コントロール状態は主の潜在能力を強制的に引き出すことです。まあ、主が潜在能力をうまく扱えたらゼロ・コントロール状態とは言えませんが」
魔眼のゼロ・コントロール状態についてアヴェルは自分の調べた事を話した。
しかし、ハーフエルフであるエレノアの方を向いて柔らかな表情を険しくして、この魔眼のゼロ・コントロール状態の真の恐ろしさを教える。
「…エレノア様ならこの魔眼の前の主を知っています。ちょうど今から五百年前、エルフの森の大災厄」
アヴェルの口から『エルフの森の大災厄』というワードが出た時、エレノアの顔が青ざめた。
エルフやハーフエルフなら誰でも知っている大事件である。
「それってあるエルフが故郷の森を一夜にして砂漠に変えてしまったあの」
「それです。この魔眼は五百年前、前の保持者の潜在能力を強制的に引き出した。そして森や魔力を全て枯らしてしまい魔力がない死の砂漠へと変貌させたのです。保持者はその後、砂漠の中央で無惨な姿で発見されました」
「一定周期で暴走を?」
「一定周期で暴走してくれたらこちらも対応できるのですが不可能ですね。我々の調べによるとこの個力は意志を持っています」
「個力が意志を待っているなどありえませんアヴェル殿!」
ジェイスが激しく反発する。
個力というのは生き物ではない力だ。
意志など持つ筈がない。
「以前の保持者は暴走する前に謎の声を聞いていたらしいです」
「謎の声?」
「ええ、『力が欲しいか』と」
「そんなの初耳だ!」
「その森の生き残りから聞いた情報です。これからも調べていく予定ですが二回しか発現していませんので難航する事でしょう。本当に謎の個力ですよ」
これはルシフェル大帝国の情報網を利用したアヴェル達なりの努力である。
龍がアイザックに決闘を申し込む前日に掴んだことだ。
「ありがとうございましたアヴェル殿」
「いえいえ、これも龍様のためです。三日間は授業には出れませんのでどうか後のことはよろしくお願いします」
「わかりました」
ジェイス達は研究室を立ち去ろうとしたがフィアナだけカプセルに入った龍のそばを離れない。
だがジェイスはそれを止めずに立ち去った。
「皆さん行きましたよ」
「アヴェルさん、今日だけここに泊まって良いですか?」
「…まあ害はないので良いでしょう」
フィアナは戸惑いながら自分の心に『龍は前の人と同じ状態にはならない』と言い聞かせた。
そして決闘した日の翌朝のように龍のそばで眠りについた。
次回でこの章は終わります!
ちなみに龍はまた暴走させる予定でいます!
それではまた次の話で!




