33話 せめて誰かを守れる力を
龍が覚醒?というより暴走します!
正確には次回、暴走します!
アイザックを追って俺は闘技場付近の森を散策していた。
「どこ行ったあいつ」
「龍!」
「エレノア!?」
そういえば生徒会はこういうのに参加するんだったな。
「生徒は全員、避難しているから龍も早く!」
「貪狼騎士団ってそんなにヤバい集団なのか?」
「ヤバいってもんじゃない!最近なんか北国の街を占領して住民を虐殺したんだよ!」
マジでやべぇ奴だな。
何となく予想してたが異世界ってそういうのあるんだな。
「じゃあ、早く捕まえるぞ。これを見ろ」
「水?いや、氷だね。これがどうしたの?」
「これは俺が個力で創った氷。アイザックが逃げる時に入り口の氷を全て砕いたんだ。簡易的な追跡装置だな」
アイザックを滑らせる目的もあったが逃げた時、靴裏に付けた氷の粒を辿ればアイザックを捕まえれるという保険だ。
「じゃあ、これを追えば」
「アイザックを捕まえることができる」
一方その頃、アイザックは、
「くっそ!何でバレたんだ!今ならまだあいつはこの国に居る。それを使ってさっさと脱出」
「さっさと何だ?もう、逃がさないぞ」
脇道から現れた龍とエレノアがアイザックの進行方向を遮った。
「なぜ俺の居場所が」
「靴裏、見たらどうですか?」
「氷の粒?」
今頃、気づいたのか。
何か違和感とか感じなかったのか?
改めて思うとよく成功したな。
「何も考えずに地面を凍らすわけねぇだろ」
「ああ、これを辿ってきたのか…。一つ訊くが何故、俺の作戦がバレた?」
「単なる勘だよ」
ファンタジーの世界でゲスい奴はたいてい悪いこと考えてるからな。
それにアイザックが醸し出してきた雰囲気を無視できる訳がない。
仮にこの様な状況に陥ってなくても俺はお前を疑っていた。
「勘ねぇ…言い残したことは?」
「牢獄の床は冷てぇぞ」
「そうかよ。正体はバレているが名乗るとするか…。俺はアイザック・シュトルツ!」
知りたくなかったけどそれは知ってる。
名乗らないとやっていけなさそうだし残りも聞いてやるよ。
「世界規模で動く犯罪シンジケート、貪狼騎士団の団員だ!」
ちゃんと所属を教えるとは律儀だな。
もしかしてそれで威嚇してるつもりか?
俺は貪狼騎士団については全く知らないからな!
「貴様の命はここでしめぇだよ!それとそこの女!死ねると思うなよ!貴様は生け捕りにして人質としての役割を果たした後に奴隷商人に売り飛ばすからな!」
遂に本性を現しましたか~。
さて、どうやるかなぁ。
とりあえず個力は発動させるか。
「龍、覚悟はできているよね!」
「無論だ!全力で行くぞエレノア!」
「個力、創造発動!」
「個力、剣聖発動!」
犯罪者に遠慮は無用!
平和的に話し合いで解決しない!
全力でぶっ飛ばす!
「二代目剣聖よ!そなたの武器、我に貸したまえ!出でよ!流星双剣ジェネミ!」
おお、双剣だ。
やっぱかっけーな!
主力武器として考えておくか。
「龍は個力で援護射撃をしてください。それと絶対にアイザックには近づかないで私に斬られたくなかったら!」
消えた!?
「そこか!」
そうか目で捉えきれない速さで動いているのか!
いや、待てよ…。
攻撃が効いていない!?
確かに斬ったよな!?
「無駄だ!俺に物理攻撃、魔法攻撃は通用しないんだよ!」
「やはり、噂は本当でしたか!あなたは全て攻撃を無効化できる!」
おいおい!そんなのありかよ!
物理攻撃、魔法攻撃が効かないのならどう倒せばいいんだ!
「離れろエレノア!」
エレノアがアイザックから離れた瞬間、俺は手榴弾を投げた。
「ノーダメか」
「だから効かねえって」
…そうかあの方法なら!
「エレノア!サンドイッチの余りとかあるか?」
「ありますけど何に使うんですか?」
俺はエレノアからサンドイッチを受け取って走り、
「こうして使うんだよ!悪いエレノア!」
アイザックの口に放り込んだ。
「超味覚音痴のエレノアのサンドイッチはどうだ!」
「何だこれ!腹が痛てえ!」
「腐ってましたか?」
いえ、元からです。
元からそうなっております。
「貴様ら!何してくれんだ!」
「降参したら薬をやるよ」
「しねぇよ!お返しだ」
アイザックは懐から何かを取り出した。
あの形状見たことある!
ていうかヤバい!
「何ですかあの筒は」
「逃げろエレノア!」
アイザックが取り出した筒から火が噴き円柱状の物体がエレノアに飛んでいった。
しかし、辛うじて龍が身を挺してエレノアを庇い腹に受けてしまった。
「テメェが何でそれを持っているんだ!」
「貴様の荷物から盗んだんだよ!平民の分際で拳銃など良い物を持つな!」
「龍、私の影で傷を塞いでください」
「さっきからやってる!でも、塞がらないんだ!」
当たり所が悪かったので直ぐ魔眼の力で塞ごうとしたが一向に傷口が塞がらない。
傷口からはどんどん血が溢れ出てくる。
このままじゃあ…。
「ついでにこんな物も盗んだんだぜ!」
散弾銃!
「ひゃっほー!」
アイザックは狂乱して散弾銃を連射する。
俺はエレノアの前に飛び出して散弾を諸に受けてしまう。
創造で壁を創ろうと思ったが何故か作れない。
こんな時にゼロ・コントロール状態かよ…。
「龍!」
「言い様だな!脳天をぶち抜かれたくなかったら従え」
このままじゃあエレノアが連れてかれる。
待つのは奴隷としての最悪の人生、例え元の生活に戻っても心の傷は消えない。
ダメだこのままエレノアを行かしたら…動け俺の体!
「…うん?まだ動くのか?」
アイザックは龍の頭に銃弾を撃ち込んだ。
龍はゆっくりと後ろに倒れる。
「もう止めてー!」
(私は剣聖の保持者なのに龍を守れないの…)
…意識が遠くなるまだ死ねない。
まだまだまだまだ死にたくない!
反抗期ですか俺の個力!
いい加減、機嫌を直して俺の言うこと聞けや!
ここでやらなかったら俺は一生、後悔するぞ!
エレノアを守りたい!!だから力を寄越せ!エレノアを守れる力を!アイザックを殺せる力を俺に寄越せ!
一時でいいだから一人の女の子を守れる力を俺に寄越せええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
『それは誠の意志か』
薄れゆく意識の中、頭の中に見知らぬ声が聞こえた。
誰だか知らないが今はどうでもいい!
誠の意志だ!
お前が誰かは知らない!
けど俺に力を寄越すのなら協力しろ!
『…良かろう。しかし、力は寄越さない貴様の力で暴れてこい!我は常に貴様と共に』
「最近、ハーフエルフが一部のマニアで人気なんだぜ」
アイザックはエレノアを拘束して逃げようとする。
「やだ龍、死なないで」
(何で私は何もできないの…。何で私は学園最強を名乗っているの…。これじゃ最強でも何でもないただの負け犬よ)
「エレノアを離せ」
倒れていた龍はアイザックを睨みつけながらゆっくりと立ち上がる。
「まだ動くのか!?…何だその目は!」
龍の左目は黒く染まっていた。
そして周りには黒い渦が。
「アイザック…テメェだけは絶対に許さねぇ!!」
殺せアイザックを殺すんだアイザックをこの世から一片残らずアイザックを消し去れ!
ということで次回、龍暴走!
さて、龍を暴走させた声の主は誰なのか!
それではまた次の話で!




