274話 穏やかな心を育む
第二騎士団本部訪問はこの話で終わります。
それはそれとして今回は二度目の温泉回ですよ!
今回は後書きありで~す。
予定通り、メアリーは昼食には合流して七人で昼食を取れた。
何と言えばよいのか肉類を引き立て役にして野菜を主役にしていた。
かと言って肉類が脇役になるのではなく、ちゃんと陰ながら主張してくる。
うん、食材のことも食者のことも考えた美味しい素晴らしい料理だと思う。
「御馳走様でした。とても美味しかったです。ありがとうございました」
「…『実り豊か自然に囲まれた環境下では穏やかな心を育むことができる』か」
「大戦期のフェリアス家の言葉ですね」
「ああ、荒んだ世界ではより環境を重視せよ。そうすれば自然と心は豊かに成長するものだ。陛下の心は濁りがなくて澄んでいるな」
「…うん?」
食事を終えただけで何で誉められているんだ?
意図が理解できない称賛は何かくすぐったいな。
そう言うエドワードも心は純粋でそれを表面にも出している。
そばに居るだけで惹かれてしまう、穏やかな心もカリスマの一つなのか?
「…少々散歩をして温泉に向かいましょうか。そこは宿泊施設も兼ねています。部屋を予約しておりますので今日はそこでお休みください」
「ありがとうございます」
一同は再び庭園を散策して徐々に温泉施設に向かっていく。
だが施設が近づくにつれて早足になり予想よりも早く扉を通過した。
そして湯煙立ち上る温泉に足を踏み込んだ。
「…本当に屋内だよな?大自然の中に居るようだ」
「父がその様な造りにするよう要請しましたから」
「そうなんですか。…うおっ、長髪細マッチョ」
「ハハハ、後衛職だとしても近接戦闘は得意ですよ。しかし、それを本職としているあちらは筋肉達磨ですね」
「何か言ったか?エドワード」
アレキサンダーはあの体格で主に魔法を使った戦闘をするんだよな。
魔法だけど大気中の魔素を使用するので自身の魔力は消費しない。
というかアレキサンダーは魔力が殆どない。
魔力波だって『抑えている』よりかは『そんなのない』の方が正しい。
けど近接で魔法を放つそうなので不思議ではないか。
「私は退団してから弛んできたな」
「御謙遜を。まだまだ現役に見えます」
「…それはそうと患者さんも居るんですね」
「昔は療養所、今は違うとは言いませんから。各病院と連携して患者さんの療養にも使用されています。薬湯、薬草の蒸し風呂もあります」
やはり、健康志向な地方なんだろうな。
そのため心なしかジェームズさんがお爺さんに見えてきた。
うーん、年々積み重なった疲れが現れたか?
「そういえばジェームズさんって何で退団したんですか?」
「単純に当主を継ぐためだ」
「いや、結婚退団ですよ」
ってことはレンのお母さんと結ばれるために騎士団を抜けたのか。
…その人を心配させないために一戦を退いたのかな?
「エドワード!?」
「本部に併設された病院で働いていた看護師に一目惚れして団長就任前に告白したそうですよ」
「…お前は人の恥ずかしいエピソードをよく覚えているな」
「あの日は本部が大盛り上がりしましたから」
「まだ結婚もしてないのにお前らが持て囃すからだ!」
「告白前からちょくちょく会ってましたよね?」
まだ体を洗い始めたばかりなのにジェームズさんの顔がどんどん赤く染まっていく。
流石に自分の恋心について語られるのは動揺するのか。
そして観念したのか自分から語り始めた。
「はぁ、団長に就任したら告白しようと決めていたからな。だが彼女はそんな些細なこと関係なかったようだ。レンには言うなよ」
「言いませんよ。…けど何か良いですね、そういう形」
「おい。恋路なんて語らずにもっとぐわっと熱くなるような話をしろ」
今まで話に入ってこないと思っていたら興味が微塵も湧かなかったのか。
アレキサンダーは戦闘こそが人生においての恋人とか思ってそうだな。
「あなたの熱くなるような話は殆どが戦闘関連でしょ?温泉に来てまで、そんな話したくありませんね」
「ふん、貴様は精霊かなよなよした話しかせんだろ」
おうおう、疲れを落とすどころかバチバチに火花を散らしてるぞ。
「ジェームズさん、もしかしてなくても二人の仲って悪い?」
「犬猿の仲であり腐れ縁ですね。半々な仲ですよ」
「…陛下、早速だがサウナに行くぞ」
「そこは同感ですね。御同行お願いします」
そして護衛任務の関係上で我慢比べの巻き添えを食らった。
確かにサウナは行きたいけど早々すぎないか?
「程々にしろよ」
むさ苦しい男同士の張り合いが行えている最中、レン達はのんびりゆっくりと温泉を楽しんでいた。
「…今頃、団長達は馬鹿馬鹿しい張り合いをしてるんでしょうね」
「同感です。大方、うちの団長が迷惑かけています。…本当にすみません」
メアリーの予想通りに龍とジェームズを巻き込んで二人はサウナで闘争心を燃やしている。
二人の団長、元団長で五王家当主、そして皇帝と逆上せて幻覚を見ているのかと勘違いしてしまいそうな光景がそこにある。
他の客は好奇心に誘われて会話を試みるが二人の熱気にやられて言葉を引っ込めて行動を慎む。
二人が馬鹿馬鹿しい張り合いをしているだけで一般人を近付けさせない結界が完成してしまった。
ある意味、これで護衛に気を張る必要はなくなったと言えよう。
「いえいえ」
「副団長の地位って大変ですか?」
「私はあのバカが殆ど何もしないので団長みたいな事をしてますので言うまでもなく大変です。一応、陛下からの助け船が数ヶ月で来ると思います」
龍からの助け船とは退団した騎士を指導者として再雇用することだ。
確かにそれが実現すればフレイヤの負担はなくなるがアレキサンダーが大人しく第一騎士団本部に居れば済む話。
けれども、あのアレキサンダーが大人しくする筈がない。
逆にアレキサンダーが帝国内を放浪していることで治安が向上しているのも事実だ。
あれもあれで行く先々の場所で問題を解決しているので文句を言えないのだ。
「私は軍医を兼任してますので副団長の仕事は団長が直接、引き受けているので問題ありませんが忙しいですよ」
「何で兼任してるんですか」
「やっぱり、騎士を守りたいからかな?民を守る騎士が居るように騎士を守る騎士が居てもおかしくないと私は思います。持論ですけどね。…王の護剣のリーダーは大変?」
「…え?書類仕事は全てアヴェルが引き受けていますので基本的に陛下の護衛をしているだけです。『皇帝』がなければただの護衛ですよ」
「確かにただの護衛だけどレンは陛下の支えになっているよ。同年代に信頼できる騎士が側に仕えている。その点では私と似ているね。…この旅はレンにとっても人生に影響を与える旅路になるよ」
さて、こんな風に女性陣は若き近衛騎士の人生相談をしている。
確かに旅路とは人生において最高の切っ掛けを与えてくれるかもしれない。
当然、それは龍の人生にも影響を与えるだろう。
現にここに至るまでの様々な旅路で多くの影響を受けている。
それはそれとしてサウナに突入したおバカな男性陣は我慢比べの真っ只中にいた。
「いい加減、二人とも落ち着いたら?」
「…まだまだ行けますよ」
「虚勢を張るな…。疲れが見えてるぞ」
「貴様こそ先ほどまでの威勢はどうした?随分と窶れているではないか」
何で自分が限界だとわかってるのに相手の闘争心を挑発するのかね、この二人は。
それにしてもエルフ族は暑さに耐性があるんだな。
森に住んでるイメージがあるから意外だった。
「…ジェームズさん、大丈夫ですか?」
「ん?ああ、私はあの二人よりかはまだ大丈夫だよ。仕事終わりにはよく通っていたものだ。そう言う龍君は?」
「大丈夫ですよ。魔族の性質ですかね?」
「確かに火山地帯に好んで住まう魔族も居るからね。私の祖先は深い森の奥地に館を構えていたと聞くが…」
…流石は吸血鬼の魔族、イメージ通りに森の奥地に館があったのか。
「レンにも訊いたんですけど血液って吸わないんですか?」
「ハハハ、非効率だから数万年程前から廃れてるよ。今じゃその名残りの牙が誇りとしてあるだけだ。あれは魔力を吸収しているんだ。十字架は魔族、ニンニクは単純に臭い、日光に弱いの居住区からのイメージとこの三つは迷信だ」
「迷信が吸血鬼の性質を作り上げたんですね」
「さて、そろそろ二人は限界のようだ。お手を煩わせてすまないが手伝ってくれるかね?」
「もちろん」
俺とジェームズさんは協力して二人を強引にサウナから連れ出した。
再び闘争心を燃やされたら面倒なので引き分けってことで。
皇帝らしく公平な判決を下しましたとさ。
「「…勝敗は?」」
「引き分け。てか、これ以上やるな」
以降、二人の団長は闘争心を燃やさずに溜め息を溢して寛いだ。
第二騎士団本部訪問で龍が見聞きしたことは多々あれど最も印象に残ってしまったのは数十年前の事件の全容だろう。
あの事件は全てを理解した瞬間に本当の意味で始まる。
それを解決するには踏み込んで止めた足を前に進まなければならない。
だが理解不能な始まりに停滞は付き物である。
そう簡単に数歩は進めずに一歩一歩と六面に一つの穴ボコが彫られただけのサイコロを振るうのみ。
しかし、今回の目的は騎士団本部訪問であり、この事件を解決する旅路ではない。
その事件はとりあえずは頭の片隅に置いておこう。
次の目的地はルシフェル大帝国随一の産業地方を管轄している第十騎士団本部だ。
さて、次回の目的地は第十騎士団なんですけど実は団長も副団長も名前が出ていないんですよねぇ…。
当然、地方の名前と都市の名前も…。
もうお分かりでしょう。
なるべく頑張りますが更新が2日3日遅れます…。




