26話 痴話喧嘩?
帰るとなぜかフィアナが怒っています!
なぜ怒っているのでしょうか?
ユルグレイト城で夕食をとった俺とエレノアは校門で帰ってきた事を知らせて学園内を歩いていた。
ちなみに荷物は執事が寮まで持って行ってくれたらしい。
手ぶらで帰れるとは便利なこった。
「そういえば俺の世界にデカいわんこが出てきたんだけどあれって何なんだ?」
今更、その事を思い出した俺に呆れる。
だって殺されかけたんだぞあのわんこに。
いや、正確に言うと確実に殺されました。
はい、かなり痛かったです。
「極稀に居るんですよ。別世界との境界線を越える魔物が」
「境界線?」
「ええ、噴水広場で言った通り、この世界と龍が過ごした世界は繋がっているんです。ですがその境界線は特殊な魔法を使わないと越えられません。或いは条件がそろった時か」
「条件ってどんな?」
俺がその事を聞くとエレノアは俺との間に氷の壁を出し手を当てた。
「そっちが龍の世界でこっちが私達の世界とします。普段はこのように通過する事はできませんがちょっとした空間の歪みにより」
氷の壁の一部が水になりエレノアは龍の方に手を入れた。
「通れるようになるんです。後は通れるようになった場所に居るかどうか。例えば龍の世界で謂う所のUMAが偶々、そっちの世界に行った魔物よ。まあ、違うのも居ると思うけど」
先ほどの説明はとてもわかりやすかった。
この世界と俺が過ごした世界は隣り合わせで存在しているのか。
じゃあ、神隠しとかそれが原因か?
「また、龍の世界以外にも別の世界があると学者は言っておりますが存在は確認されていない。ただの雲を掴むような話です」
「エレノア、寮はこっちだぞ」
エレノアが寮とは別の方に行こうとしていたので止めた。
もしかしてもう寝ぼけているのか?
「パパが私専用の寮を建ててくれたんです。でも、広いので女性の教員も居ますよ」
娘専用の寮を建てるとか流石はアレックス王だな。
そこまで娘の事が心配ないなら城から通わせばいいのに。
「…エレノア」
「何ですか?」
「アイザックと結婚してそれでエレノアは満足なのか?嫌ではないのか?」
俺はしてはいけない質問をした。
エレノアにこれ以上、『アイザックのことは忘れろ』と言われたからだ。
それもあるがもう一つはエレノアが明らかにアイザックとの結婚を嫌がっていたから。
それをわかっていて俺は訊いた。
エレノアの本心が訊きたかったからだ。
俺がどうこうできる問題ではないことは充分、理解している。
けど、それ以上に俺の中で何かが訴えかけてきてんだ。
救ってやれと。
「…もう遅いのでまた明日」
エレノアは振り返りもせず自分の寮へと戻っていった。
でも、その後ろ姿から俺が早朝に出会ったハーフエルフとは別のハーフエルフなのではないかと想わせた。
神々しくないその姿はまるで曇天に隠された太陽のようだった。
…本当に糞ったれな世界だな。
「ただいま…いっ!?」
部屋に戻るとなぜかフィアナが入り口で仁王立ちしていた。
おいおい、武蔵坊じゃあるまいし何やってんだよ。
…雰囲気から察するに何か怒ってるな。
「何かあったのか…」
「『何かあったのか』って…。ええ!!ありましたよ!『夜ご飯一緒に食べよ』って約束したのに帰ってこないで!挙げ句の果てに執事さんが『龍様ならエレノア様と夕飯を食べてます』って…はぁ!?そんなにエレノアがいいの!」
フィアナが殴る体勢に入る。
何なんだよこの理不尽は!
「ちょっと待て!いつそんな約束した!」
そんな約束した覚えはない!
「しました!昼休みに医療塔で!」
ああ、医療塔で約束したのか。
確かに昼休みはまだ医療塔で悶え苦しんでましたよ。
だが一つだけ言わせろ!
「あんな状態の時にそんな事を言われても覚えてられるか!」
「…確かにあたしも悪いけどさ!覚えていなさいよ!」
今、少し考え直そうとしただろ!
何で退こうとしたのに再び前進してきたんだ!?
どんだけ負けず嫌いなんだよ!
「生きるために精一杯だったわ!」
「死ぬ気で覚えなさいよ!」
「死んだら元も子もないわ!」
「死んでも龍は生き返るでしょ!」
ああ、めんどくさい謎のスパイラルにはまってしまった!
初めての登下校でやったよなこういうの!
これは一方が退かなければ決着付かないが今回だけは俺の方が正しいから退かんぞ!
「だいたいな!あんな状態で約束するフィアナが悪い!」
「あああ!!何も聞こえない聞こえなーい!」
こいつ~!
言い返す言葉がなくなるとすぐに聞こえない振りをする!
マジでこいうところが恋と同じだ!
「もう少し静かにしてくれない?それと夫婦喧嘩はよそでやって」
二人の口喧嘩がヒートアップしてきたせいか隣部屋の女子がドアから顔を出して注意する。
「ふふふ夫婦喧嘩!?あたしと龍は夫婦じゃなーい!」
フィアナが俺の胸ぐらを掴んで窓から放り出した。
咄嗟の出来事すぎて抵抗できんだ!
というか何で俺に八つ当たりするんだよ!
完全にスパイラルからの離脱目当てで投げただろ!
「覚えてろよフィアナ!!創造発動!」
龍は地面に直撃しないようにマットを創った。
しかし、間際で創ったためかぶつけた背中をさすりながら立ち上がる。
「何してるの?」
ちょうどシアン先輩が寮の前に居た。
シアン先輩は二年生だから多分、フィアナに用があって来たのだろう。
「理不尽な攻撃を受けた」
「どうせフィアナでしょ」
「そうそう」
それからシアン先輩が仲介役として俺達の喧嘩に入り、フィアナを説得してくた。
最終的に何故かエレノアが一番悪いことになってしまったが喧嘩が終わるのなら、もうそれで良い。
「うん?何か殺気を感じたんだけど気のせいよね」
次回!またもや憎たらしいアイザック登場!
少しネタバレしますがアイザックのせいで三章の最後で龍がとんでもない状態になります!
それではまた次の話で!




