258話 戴冠式幕間①
幕間ってことで色々と自由に過ごします。
初めは真剣な話をして、自由に過ごすのは次の話で。
っていうかそろそろ別の小説も更新しないと…。
アイデアが渋滞して何とも言えない状況です。
まあ、完全に僕の自業自得なんですけどね(^∀^;)
今回も後書きなし!
「…やっと自由に身動きができる~」
「いやぁ、初めての公務にしては上出来だよ龍君」
「まあ、基本的に相手の話を聞いて疑問があれば問い質すだけの作業でしたから。流石に戴冠式に敵対勢力と繋がりがある国が参加していたのは驚いたけど」
「これで武器提供を一ヶ所だけ潰せた。…しかし、あの国は利用したら見捨てる駒にすぎない。奴らは先の取引で鉱石の大部分を持ち出していた」
何でも犯罪組織に荷担している国や組織は少なく見積もっても三十は越えているらしい。
国の中にも『一部の貴族が』や『王位を狙う輩が』という場合もあるようだ。
先のように国王自身が荷担しているのは珍しいとのこと。
…何れにしても『少なく見積もっても』だ。
確定していないものを含めると約五十二、疑惑を含めると約六十五である。
っていうかこの数字は言い換えれば『把握している数』になる。
要するにまだまだ増える可能性はいくらでもある。
…何処に行こうが悪を手助けする馬鹿は存在するんだな。
「…次に潰す予定のある場所とかって決まってるの?」
「…陛下はその様な物騒なことは気にせずに勉学に勤しめ。そういうのはまだ妾達に任せておれ」
「ベガスだ」
「グレン!」
シャルロッテさんの態度から何となく次の対象が俺がよく知る場所だと察していた。
だとしてもグレンさんは躊躇なくエイジの故郷であるベガスを出してくれた。
いや、ベガスも俺の中ではかなり特殊な街だという印象がある。
それが次の対象に選ばれても驚きはしないが…ちょっと辛いな。
「大丈夫ですよ。それよりもベガスを次の対象に決定に至った経緯は?」
「…活動資金の出所という推測がされたからじゃ。ベガスの立場上、カジノで得た利益をどう回しているのかは詳細にはわからぬ」
確か諸外国の要人が賭博をして掛け金の代わりに機密情報を提供する。
勝てば元金なしで大金を得られるが負ければ国家的に大損する。
それにより下手にベガスの内部情報を知れない。
「だがモデルを作って専門家に計算させてみると半分ほど不明な用途が確認されたんじゃ」
名前は出していないけど、その専門家ってヴィクトリアさんだろ。
先程から自慢気な顔でこっちを見てるし。
「それが犯罪組織の活動資金にせよ用途不明の資金にせよ明るみにせねばならぬ」
「第一にベガスは国家の機密情報を握っている。対象には定めたが、まずはディルフェアン連合等と接触していないか確かめる。手を出すのはその後だ」
「まあ、冤罪だったら得た機密情報で何をしでかすかわかりませんからね」
…あれ?何か当然のように変なことを口走ったぞ。
国家の機密情報をベガスはどうやって入手している?
それは賭博の際に用いられる掛け金の代わりに…。
それは引き際を見切れなかった要人に責任があるな。
いやいや、いくら掛け金がなくなっても国家機密を掛け金の代わりに差し出すか普通!?
「…クラウスさん」
「何だね?」
「仮にあともう一息で勝てる場面で掛け金が尽きたとします。そしてディーラーから『国家機密情報を掛け金の代わりにできますよ』って言われたらどうしますか?」
「そんなの当然…」
「そう、いくら賭事に熱が入ったギャンブラーでも自分の弱点を掛け金にしませんよね?おかしいんですよ!要人が国家に背く行為を堂々と行える場なんて!」
ベガスの賭博場はこの一点だけでも充分、異質な場所として捉えられる。
国家機密情報がポンポンと湯水の如く溢れる場所?
明らかに何かよからぬモノがそこに存在する!
っていうか何でこんな幼子でも理解できるバカげた状況を今まで誰もわからなかったんだ!
「つまり、ベガスはこの国家機密情報を奴らに提供している可能性が高いと?まぁ、言えんことはないがベガス独立を支えるものとも言える。推測の域を出ないぞ陛下」
「…クラウスさん、アヴェルから聞きました。ルシフェル大帝国の要人もそこで国家機密情報を渡したと。もしかして、その情報って国家防衛に関する情報なのでは?」
「…確かに言われてみれば第一騎士団の配置と巡回時間、五王家の今後の方針とその殆どが直接的ではないが国家防衛に関連している!だが何故、国家機密情報を簡単に公開する!」
「…神器ならば可能だろ。魔法は耐性で除外できるが神器には耐性を貫通するものがある」
ジェームズさんの言う通り神器を使えばこのバカげた状況を再現できるな。
それにその神器を提供した組織がディルフェアン連合ならばベガスが犯罪組織に荷担している推測にも頷ける。
どうやらクラウスさんの中では、今後のターゲットをベガスに定めたようだ。
「…龍君、私は数日後にエバーパラディスに赴く」
「ベガスについてあちらの王と会談するんですね」
「ああ、そうだ。それと君にもう一つ言っておくことが」
「エイジとは縁を切りませんよ。あいつはあいつです。仮にエイジが俺を裏切ろうとしていても最後の最後まで友達でいます」
龍は曇りなき眼でクラウスを見つめた。
こう龍は返答したが恐らく、裏切られたとしても彼のことを友達と思い続けるだろう。
それに敵になった彼を引き戻すために真正面から戦う筈だ。
「…すまない。不躾なお願いをするところだった。彼に関しては君の好きなようにするといい」
「ありがとうございます。で、即位して同盟国との会談も終わりましたけど、どうします?」
「昨日通りの予定で進行するがいささか時間がある。…三時間ほど自由に過ごしない」
「護衛なしに自由行動ですか?…自由ってことは城下に行ってもいいと」
「ああ、マスコミを避けられるかは君次第だがその通りだ」
凝縮された多忙な時間の果てに龍は完全な自由時間を獲得した。
内心に留めようとしても素振りで隠しきれていない。
解放されると直ぐにお辞儀をして玉座の間から退出する。
それはまるでリードを外されて、ドッグランに放たれた子犬のように急いで自室に駆けていった。
そして王冠を置いて正装を脱ぎ捨てて、私服に着替えると正門から飛び出したとな。




