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208話 前兆

早いけど次回から戴冠式だー!

そして何事もなく終わらせるとか、こんな大イベントにあってたまるか!

今回は悪役大集合!貪狼騎士団、ディルフェアン連合、暁の天魔、円環の大蛇が出ます!

 ゼノがホテルから去る約数分前、暁の天魔の団長であるガイは独りで物静かに手紙を書いていた。

 そして書き終わると窓枠に止まっていた鳩の足に括り付ける。

 それは手紙よりも報告書の方が近く一行だけでとても短い。

 内容は『戴冠式は予定通り行われる』という単純なものだ。

 だが、この一行だけで受取人は満足する。

 宛先はディルフェアン連合、谷山村にて龍が撃破したルナが所属している組織の名だ。

 ガイがディルフェアン連合の連合王に手紙を送ろうとも別に違和感などない。

 何故なら暁の天魔とディルフェアン連合は同盟を結んでいるからだ。

 果たして、その二行にも満たない報告書に何の意味があるのかはまだわからない。

 しかし、『前兆』と呼ぶには充分すぎる出来事であった。


「はぁ、やっと目が離せる状況になった。ああ、貸し切り状態で良かったぁ~」


「そうでなければ今頃は他の客から苦情が殺到していましたね。お疲れ様です。ティルミッド先生」


「あら?エレイザーク先生も休憩ですか?」


「まあ、そんなとこですかね」


「元気なのは良いことですけどあり余りすぎですよウチの生徒は。これは明日もお互いに忙しくなりそうですね」


「ええ、生徒の見本になるよう気を引き締めまょう」


 やがてレイが広間に戻ってきて何事もなかったかのように時間が進み始める。

 だが確かにこの短い時間の間で二つの大きな前兆が顔を出した。

 それでも明日の戴冠式は月の満ち欠けのように延期することなく行われる。

 そして龍は主役として英気を養うべく定刻通りに別れを告げて城に帰った。 












 一方、ガイが飛ばした伝書鳩は受取人のもとに辿り着いていた。

 人気のない深い深い森の最奥に何千にもの人々が屯っている。

 その一角で焚き火を囲んでいる四人の中に受取人は居た。


「…先から姿が見えんが貴様のとこの団長はどうした?」


「トイレだとよ」


「会議をするってのに自由すぎだろ」


 質問者は舌打ちをして愚痴を漏らす。

 それを聞き逃さなかった回答者は傍らに立てかけておいた剣の柄を握り抜刀した。

 質問者は前もって張っておいた障壁でそれを防ぎ自身も腰に携えていた剣を抜刀して斬りかかろうとする。

 だが回答者は障壁を砕いた瞬間に再度、振るっていた。

 互いに放った攻撃は衝突するかに見えたが第三者の介入により、二人は攻撃を中断した。

 止めたのは黒色のローブを着た者だ。

 よほど姿を見せなくないのかフードを被り、口元はスカーフを覆って隠しているため両眼しか出ていない。

 種族おろか中性的な声をしており、それで性別を導き出すことは不可能だ。

 しかし、この者が円環の大蛇(ウロボロス)の教祖である事は全員が認知している。


「不幸の気が満ちるから止めろ。グリューゲルの時間厳守はわかるが貴様が会議開始を引き延ばそうとしてどうする?それこそ連合王を困らせる結果になる。オルディア、ゼノの名誉を守りたいのはわかるが器が小さすぎだ。ゼノなら相手もせずに笑い飛ばしたぞ」


 質問者はディルフェアン連合の国主アルター・グリューゲル、回答者は貪狼騎士団の副団長リュカ・オルディアだ。

 龍と相見えたあの二人の姿もここにあった。

 要するにこの場には貪狼騎士団、ディルフェアン連合、円環の大蛇(ウロボロス)と三つの犯罪シンジケートが集っていることになる。

 仮にここを若き騎士団員が通れば騒ぎ立てずに一瞬で卒倒している。

 翌日には夢だと勘違いして同僚に話しているだろう。


「いやぁ、かなり大きいのが出たわぁ。おや?そんなに殺気立ってどうしたんだいリュカ」


「お前のせいでグリューゲルと喧嘩したのだよ。少しは謝罪しとけ。時間を守らないお前が全面的に悪い」


「すまなかったグリューゲル。悪い奴じゃないんだこいつは。ちょっと忠犬みたいな性格でな何かといざこざが絶えないんだよ」


「…忠義となれば仕方がない。明日のことで張り詰めすぎたこちらにも非はある」


 一触即発の空気は二人のリーダーの仲裁もあって穏便に収められた。

 仮に二人の斬り合いが始まれば連合王は即座にリュカの首を跳ねている。

 だが喧嘩を始めた時点でゼノは陣地を歩いていた。

 そのため連合王が抜刀した瞬間にこの焚き火の前に現れ、リュカの首を掴んで後ろに投げ飛ばして攻撃を受け止めていただろう。


「…では会議を始めよう。結論から述べると明日は定刻通りに帝都に進軍する」


 既に夢の中に誘われている龍は人気のない深い森の最奥で世界の行く末を左右する物騒な会議が行われている事など知る由もなかった。

 そして、その悪意にまみれた思惑は防がれずに太陽は顔を出す。

 その太陽は若き皇帝を祝福するモノか。

 はたまた歴史の崩壊を警告するモノか。

 何れにせよ新たな時代が来光と共に始まったのは間違いない。

 今日は善人悪人を問わず誰もが待ちわびた戴冠式の日、或いは平凡な日常に別れを告げる日だ。

ということでこの四つの集団に暴れてもらいます。

初っ端から暴れるってことはありません。

あるタイミングで開戦します。

それではまた次の話で!

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